おまえのいぬになる*8

承前)
男役問題についてはもう決着がついている。
歌劇団で男役やってたスターが退団して男役やってるのはどうにも受け入れがたい気持ち悪さがある。エンバーミングみたいで。生理的にイヤだ。現役時代に男役やってた時の映像とか写真なんか見ると「こんないい男はいない」と思う。それは在りし日の映像だから別に構わない(でもいつまでもそればっか見てるのもどうかという気はする)。退団した後、なんか身につかない女の格好をしていたりすると、食べたセンベイがしけってたような気分に陥ることはある。これもまあ仕方ない。それでもなによりも気味悪いのは「やめても男役の扮装」。ほんとにエンバーミング。そばに近寄りたくない。何かがくっついてくるようで。さわったら指からじわーっとしみこんできそうで。塩持ってきて塩。桃でもいい。

しかしだ。
黒のジャケット、白のシャツ、パンツ、なんていう格好をしてるとどきっとしたりするんですよ。

まあ、いわゆるパンツスーツスタイルなんだけど、そんなものはごくふつうの格好です。しかし時にどきっとする。パンツスーツならなんでもいいわけじゃなくて、「コレだ!」というシェイプがある。それはどういうシェイプかというと、デザインスーツみたいなのはまるっきり違う。ごくふつうの、細身ですとんとした、……考えていった先には「黒の燕尾服」というのがある、のだった。黒燕尾っていったら「歌劇の男役の正装」じゃないですか。黒燕尾着てほしいのか私は、大ちゃんに、いまだに! ちなみにブラックタキシードは別にいい。タキシードってのはどうも好きになれない。現役時代着てて似合ったからそれはそれでいいんだけど、黒タキ禁止令が発令されても構わない。しょせんヤンキーの正装だ。ですから黒燕尾。黒燕尾の香りのするものがふっと香った時があやうい。これは、いやだいやだと言いながら、男役が忘れられないのか。エンバーミングとかいって厭悪しておきながら実は自分の中にネクロフィリア趣味のあるということなのか。アメリカ南部の保守のおっさんが自分の中にあるゲイ趣味を恐れてゲイ差別に走っているようなものなのか。

と、悩んだりもしたわけです。しかし実際、黒燕尾はかっこよかったんだよなあ。OSKの男役で黒燕尾がよくてどきどきしたのって大貴誠と貴城優希ですよ。黒燕尾の肩のへんね。こう、近寄った時の布地のにおいとかまでがこちらをくらくらさせるような。
しかしだ。大貴誠は(貴城もだけど)もう退団した。職業としての男役はやめた。女はふつう黒燕尾着ない。着るときは経帷子になる。そんなのはいやだ。でもそれって頭で考えてる「イヤ」で、胸に手をあててよく考えたらそういう気持ち(私としてはそれを劣情と呼びたい)を捨てなくてもいいのではないか。もっと自由にやりたいことやるべきなのではないか。……などとぐるぐる考えて結論がでないでいたわけだ。
そんな時に大貴誠の重要なお言葉がもたらされた。(つづく)

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