桜花謳歌せずして何が人生か

桜花昇ぼるはものすごく素敵な時とまあまあの時がある。劇団員も生きた人間なのでコンディションというものがあり、大貴さんだってすげーイイ!という時と「うーむ……」とうつむく時があった。

桜花ちゃんの魅力を最大限に爆発させる。いったいどんな場面をやったらいいんだろう。今までやった役の中で私がいいと思ったのは、

・袴垂保輔(新闇)
・織田信長(去年の武生)

が東西横綱でして、この二つは「ほんとに素敵」だと思った。ドキドキした。つまりこれでいくと「昔の日本の戦う男で、狂気を秘めた男」がイイってことなんだろうか。それがどうも、自分で書いていてしっくりこない。私は桜花ちゃんは、「明るく心優しく少し気弱」な役が似合う、と頭では考えていて、その一方、で「熱いバカ」のようなのをすごく見たいというのもある。才能があって学がなくて猪突猛進で迷惑かけまくるが憎めない男、みたいなの。具体的にいえば阪田三吉である。しかし、私はこれはぜったいカッコイイ(木村名人を高世。これもあまりにもはまりすぎ。南禅寺の決戦とかいって、これなら松竹座でも南座でもできる)と思うのだけど……歌劇ファンがあんまり喜ばないかもしれないんだよなあ。

敗れる者の美しさ、というのを表現できるのが桜花ちゃんであるが、でも私は幸村はあんまりいいと思えなくて、なんでだろ。「最後に散る」んじゃなくて、みっともなくても生き残る敗者、のほうが似合うと思うんですよ。だから阪田三吉なわけ。木村名人と南禅寺で戦うったって、負けて死ぬわけじゃないもん。……すると、上に挙げた二つ、保輔と信長。これなんか敗者そのものだけど、そのへんどう整合性をとるんだ。…………うーん、保輔は、最後に散るというよりは「暗黒に堕ちる→死で救われる」感じだった。お耽美の世界の男ですよね。桜花ちゃんにもっとも似合わないのが耽美の世界なのだが、保輔に限っては、すごくはまってた。桜花昇を見たごく初期にあれに当たってしまったために、そういうタイプのスターなのかと思ってしまった。でもなんで保輔はあんなにイケてたんだろう。あんなに本来ニンじゃない役もなさそうなのに。謎である。あの保輔みたいな桜花ちゃんて、あれ以前も以後もない。

今ふと思ったんだけど、真田幸村じゃなくて、楠木正成のほうがはまるんではないだろうか、桜花昇ぼるには。出自が謎で、ゲリラ戦法で、ある意味ムチャクチャな男。しかし南朝のために死に戦に赴く。それで『桜井』で、桜花ちゃんにぴったりではないか。……ただし、脚本と演出はがYUKIMURA(サンケイホールのほう)みたいなことではすべてブチ壊しである。松竹座で『悪党』とかいうタイトルで、本水だの宙乗りだの屋台崩しだの使い放題の作品、とかなら見てみたい。超スペクタクル歌劇。金銭的にムリだな。

織田信長は、敗者というよりは「狂王」で、散るというより爆死……は違うか。でも自爆っぽい。敗者の美っていうわけじゃない。となると、ルードヴィッヒなんてのは狂王だからいいんだろうか。お耽美じゃなくてリアルな話にしたら、案外、桜花ちゃんはハマるのかもしれない。しかし、それがどんなものなのか具体的なことは何も浮かばないのであった。

やっぱり阪田三吉。舞台化する時にすごく気をつけないといけないのは、大衆演劇みたいにしてはならん、新劇みたいにも新国劇みたいにもしたらいけない。宝塚のロマン芝居風のちんたらした展開もダメ。エリザベート級に曲を揃えられればミュージカルもアリだろうがそんなことはたぶんムリ。ではどんなふうにしたらエエんじゃ! OSKが今までやった公演でもっとも近いやつを考えてみると、あやめ池でやった『セロ弾きのゴーシュ』、あの感じでできればすげえイイ!と思う。『セロ弾きのゴーシュ』って、今思うと、ものすごく電飾がキラキラ瞬いて、金や銀の星がちりばめられてるような舞台であったが、ゴージャスな感じではなくてひたすら浮き世離れしていくという空気をつくり出していた。あの空気で、キラキラ輝く阪田三吉。いや決してラメの紋付きを着せろとか駒にラインストーン埋め込めなんて言いません。でも金色の紋付き袴ならいいかもしれない。上から下まで。「なんと! 神聖なる名人戦の対局に全身金色とは!」みたいな(阪田三吉はそんなこたやってませんけど)。そして、『ゴーシュ』級の曲ができれば、これはぜったいいけるはず!(断言)……ただ、ゴーシュ級の電飾ってけっこう金かかりそうな気がする。

あと、たぶんこれは上演は難しいと思うのだけれどできればぜったいに感動作になると確信しているのが、桜花昇ぼる=駒井喜作、高世麻央=西光万吉のミュージカルなのだが。舞台は奈良であり、大阪であり、京都である。OSKがやらずに誰がやる、という題材である。

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