穏当は本当は
『OSK日本歌劇団90周年誌 桜咲く国で 〜OSKレビューの90年〜』が刊行され、私もぶじ入手しました。
本の体裁としては、私の愛読する『茶の湯入門シリーズ 和菓子の四季全国から選んだ茶席の名家230品』(淡交社)、『アメリカ南部の家庭料理』(アノニマ・スタジオ)などと同じ(わからんか……)、オールカラー大判ムックという感じ。とにかくちゃんとしていて、誕生から現在に至るまでのOSKの歴史を、トピックスやスターに焦点をあててつづったものになっている。編集員のちどりさんのブログにも書きましたが、ここまでのものを「つくろうと決意して、実行した会社」および「膨大かつ煩雑な編集作業をした編集員の方」にはほんとうにお礼を言いたいです。ありがとうございました。
一読して「つまらない……かも……」と思いました。が、それは私がこの本が出ると知った時から「無い物ねだり」をしていたのだ、ということにすぐ気がつきました。私はこの本に「OSKのことを書いた本」を期待していて、いや徹頭徹尾OSKのことを書いてますが、私の望んでたのは「OSKに対する批評」だったんですね。ミュージックライフや音楽専科しか知らなかったELPファンの中学生がロッキングオンを読んで驚愕する、ような、能楽堂の売店で買った『現代能楽』を読んで驚き堂本正樹の能評を読んでさらにドキドキするというような、そういうものを求めていたわけです。
そりゃ無理だ。だって社史ですもん。高校在学中にちょうど周年で学園史みたいなものが出て生徒みんな買わされたけど、どこに我が校への批評など書かれていたか。むかしバイトしてた会社で、いろんな会社の社史のたぐいが集まった本棚があって、けっこうそこの本を読むのが好きだったけど、それは「歴代社長へのオベンチャラ大会」みたいなのが堂々と載っててそれが面白かったからで、つまり社史ってそういうもんだ。不倫をしてサラリーマンがトバされる先は社史編纂室、と相場は決まっている。
……そう考えると、この『90年史』はよくできている。もちろん、社史ならではのオベンチャラも満ちあふれてはいますし、ジャーナリスティックな視点が足りねえよ、と最初は思ったりもしました。文章が明らかにへんなところもある。が、インタビュイーの人選には、何か編集者の意志みたいなものも感じる。大谷先生と奥山先生のインタビューですね。とくに大谷先生のインタビューで、OSKのラインダンスのスタイルを決めたのが誰だったのか、という話は面白かった。ここで名前の挙がった方とは少しお話しをしたことがあった。優しい人だった(そして、突然亡くなられてしまったので)(ちょうどその日、NewOSKのイベントがあって、吉津さんや大貴さんが報せを聞いてイベントが終わってすぐそっちへ向かったりしていたので、そのことが強い印象になって残っている)。近鉄が解散した時に、黒燕尾と白ドレスを自腹であつらえて劇団に寄付してくれた、という話も聞いたことがあって、ああ、あの人が、ということですごくこのインタビューは心に残った。
それから、解散から現在に至るまでの部分。正直なところ、ここを読むためにいちはやく入手したようなもんでした。で、読んだ。ごく穏当。こんなふうにしか書けないんだろうなと思ったし、現在進行形でもあるからきれい事にしなけりゃやっていけないだろう。でも、これから劇団がどう進んでいくのか、というある意味重要なことがさっぱりわからなくなっている。存続でやったことのどこがよくてどこが悪かったかという総括みたいなものがちょっとでもあればそこに「意志」が見えるんだが、とにかく「触ると痛いところには触らないようにしよう、痛いから」というような感じなので、おまけにそれが本のラストなので、大丈夫かいな、と正直なところ思うのであった。総括というのは往々にして去った人間の血を流すようなものになるので、それを避けたいというのはわかるけども。
ところでこの本、読んでて何かに似てるなー何か……何に似てるんだ……と考えていてわかった。教科書。教科書というか副読本というか。各章のタイトルの入り方や写真の入り方。歴史を追うというメインのページの、間にはさみこまれる「特集ページ」「こちら桜小路探偵社(という、OSKに関する謎解きっぽいページ)、歴史と関係なくはさみこまれる最近の公演の舞台写真。こんな教科だったら勉強に身も入り、テストの点もさぞやよかったろうにねえ。
このような書物が出版されたことを嚆矢として、今後、OSKに関する批評の本が出てほしいと願っております。『ボートBOY』じゃなくて『マクール』を。OSKに必要なのはそれです。音楽業界はいいよな。『ミュージックマガジン』があって『ロッキングオン』があって二つで敵対しあってたりするんだから(というのも古い話か)。それぐらいあってこそシーンも盛り上がるってもんです。……ファンの数が違うわな。
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