ラストショーについて

日生劇場の千秋楽、幕間に人としゃべっていて、その時に「日生でいい作品をやって初見の(それも東京の)客をつかんでも、次の自主公演でゲンナリするような作品をやって日生でついてきてくれかかったファンを払い落とすようなことになりそうで不安だ」と言ったら、「そうなんですよ」と口を揃えて応えられて笑ってしまった。笑ってちゃいけないが。その人たちお二人は関東の人で、OSKもそんなに長くご覧になってるわけじゃないと思うのだが、そんな短期間ですら「そうなんですよ」と思わせる、OSK日本歌劇団駄作打率の高さ! 駄作首位打者! だから笑い事じゃないんだってば。

で、そのうちのお一人が、OSKを布教しようと『JUJU』三越劇場公演を、お知り合いのタカラヅカファンの人たちに見せたら「宝塚ファンの人にはダメだったです」という。
「そうでしょうそうでしょう! だめなんですよJUJUじゃ!」
と私は叫んでしまったのですが、これは、「宝塚ファンにもイイと言われるような作品をOSKにつくれ」という意味じゃない、ということをその時にちゃんと説明しておけばよかったんだけれど幕間で長々しゃべれなかったので説明できなくてすみませんでした。私が言いたいのは、趣味嗜好を越えて、作品というものには「高みを目指す志」があるべきで、そういうものであれば宝塚ファンにも落語ファンにも能楽ファンにもひこにゃんファンにも、結果的にこちらのファンになってもらえなくとも、認めてもらえるはずだという話です。OSKの自主公演では。カネと時間と工夫の無さから、易きに流れた作品を出してしまい、それではファンなんて増えない。ということが言いたいのでした。
今回の日生(というか『春のおどり』は)目指すものは高かった。

で、今回私がいちばん「どーん……」ときた洋舞の第十二景『ジャスト・ダンス』について。

洋舞の終盤というかもうフィナーレか。チェリーガールズ
(※このチェリーが、いろんな方がおっしゃってるけど「ついにチェリーガールズのコンセプトに合った場面」だった! ソウルトレインというかサウンド・イン・Sというか、オルガンがぎゅるんぎゅるん鳴る、70年代ぽい音楽で、振付も曲にぴたっと合ってなおかつメンバーをきちんと押し出したもので、しょーもないアバメドレーとかやらされてチョコマカ踊ってたのがいかに間違いだったか白日のもとになったという感じでしょうか。今後もこれでお願いします。でもそのためにはメンバーがちゃんとダンサーじゃないとなー。今までのチェリーだと別に踊れなくてもいいじゃんて感じだったけど、今回のを見てしまうと、「チェリーガールズとは本来、森野木乃香、春咲巴香、平松沙理、陵ちはや、瀬乃明日華を揃えるぐらいのメンバーじゃないといかん」のだということがわかる。踊れることはもちろんなんだが、将来のトップ娘候補を入れるのもまちがいで、チェリーに入って人気が出てトップになっちゃった、というのなら辛うじて許される、というそういう人選が正しい。ま、今回、踊れてない人の踊れないっぷりが楽しめたからいいけども)
が終わって、ラインダンスへ行って
(※この作品で私がひっかかったのは、このチェリー→ラインダンスの流れ。なんか流れが悪かった気がする。あと、ラインダンスの衣装があんまり好きじゃなかった)
(※ラインダンスといえば、OSKがラインダンスを売りにするんだったら、娘役上から下まで全員、男役も真麻以下は出したらいいんじゃないかなあ。それこそ2004年春の全員ラインダンス体制みたいにして。あれはとてもいいラインダンスだったからああいうこともやるべきではないか、たまには)
ラインダンスが終わると暗転になる。そこにドラムのイントロが流れて舞台に照明が入ると、男は黒タキ、女は黒スーツで後ろ向きに居並んでいる。そしてダービーハット。

これは、2007年春のおどりの『ラストショー』である。
曲は同じ(ちょとだけオーバーダビングしてあった)。
振付も95%ぐらいは同じ。2007は大貴さんが一人だけ白タキシードだったが、今年のは桜花、高世、桐生が白タキ。

曲が終わると、白タキ3人が、帽子と手袋を脱いで渡す。2007では白一人の大貴さんが帽子手袋脱いで渡して、ハンカチもらって汗を押さえて返す。このあと、2007では大貴さんが舞台にひとり残って『This is the moment』を歌う。今年は桜花高世桐生の三人が残って『Let me try again』を歌う。

これをどう見るか。

ふだんから、場面の使い回しについては口を極めて「カンベンしてよ〜」と言っている私ですが、これについてはそういう気持ちは抱かなかった。
というのも、この場面、2007年春のおどり『桜ファンタジア』におけるこの『ラストショー』という場面は、This is the momentへの流れも含めて、最大級に重要なところである。見た人間にとっても、2007の帽子ダンスといえば忘れられない名場面である。
(なのに、この日生公演を見た人の感想、とくに初日、ラストショーと同じところがあった!という感想を私はぜんぜん見かけなかったのがものすごく解せない。なんで? いいとか悪いとかじゃなくて、ここは「うわっ!」となるところじゃないの?)

作り手側が、ことに今回は名倉先生だ、そのことをわからないわけがない。そんな場面を、OSKが勝負をかける日生劇場公演のクライマックスに持ってくる。大貴誠がやってた白を桜花高世桐生の三人にして。それは、使い回しじゃなくて、何か考えがあってのことだとしか思えない。というか、そうに決まっている。

その先生の思いに応えることができたのか。
曲もいい振付もいい、場面の完成度が高いし、クライマックスのカタルシスも充分にある。きのう言ったように劇団員には良い意味での緊張感があって、下級生まで信じられないぐらいちゃんと踊っていた。いたけれども。……ということは、私にはあの場面は不満でした。こんなにアッサリ流しちゃってもいいのかとショックを受けた。

日生の公演で、あの時のあの場面をやりなさいと言われたら、あの時を凌駕するほどのものにしなきゃいかんだろうと思う。大貴さんの屍を踏み越えていくのでなかったら『ラストショー』は『ジャストダンス』にはなれないだろう。
(でも、私が、あの公演の、あの場面に、過剰に思い入れをしているのかもしれない。それでも、もう少し、あの場面の重みってものを考えてほしかった)

それでも、この日生の『春のおどり』は、良い公演だっと思うのだ。

手袋

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