石走る垂水の上の早蕨の
折原有佐=折ちゃんの卒業公演が終わった。折ちゃんらしさのあふれた良い公演であった。
いや、べつに『Let’s Hung Out!』は“折原有佐卒業公演”と銘打たれてたわけではない。最後に出演した舞台がこれだっただけだ。主役だなんて思ってもいないだろう本人も。でも主役でなかったから折ちゃんらしさがあふれた。
男前な娘役、というのはOSKの娘役にはよく言われるホメ言葉だがほんとに男前な人は実はそれほどいない(宝塚と比べりゃ多いのかもしれないけど)。そんな中で、OSKが誇る男前娘役の若木志帆という人がいた。そして折ちゃんもまさしく男前娘役であるのだが、でもふたりの男前っぷりはぜんぜん違うのだ。水がなくなってみんなが死にそうになってるとする。そんな時、ひとりで立ち上がり、スコップで岩山を砕き泉を掘り出してしまうのが若木さんで、自分が泉になってしまうのが折ちゃんである。どうやって泉になるのかって、そりゃ、水をびゅーっと……ってそれじゃ水芸の人みたいだが。とにかく折ちゃんは水々しい(瑞々しい)。舞台にいつも澄んだ水をあふれさせる尽きない泉みたいにそこに出現するんです。おいしい水をみんながすくって飲んで生き返る、ような存在。悲壮感も何もない。じめじめしてるんじゃなくて、ほとばしる透き通った水。その水を浴びて桐生さんがやたらかっこよかったよね。虹架も愛瀬も。別に娘役は男役に寄り添わなくたっていい。ちょっと横から水をじゃぶじゃぶ浴びせて、水もしたたるイイ男に見せるんだっていいじゃないか。……そんな光景を見せてくれた人は、嗚呼、これで卒業しちゃいました。泉の蛇口をぎゅっとしめて、後ろも振り向かずに歩いていきました。しかし蛇口しめられちゃうとこの先、水はどうしたら……誰かー!
で。
『Let’s Hung Out!』は丁寧につくってた公演だと思うし、何よりも桐生さんがすごいかっこよかったのは良いことでした。折ちゃんも可愛かったりかっこよかったりいじらしかったりして、卒業を美しく飾ったと思う。ただ、一点どうしても納得のいかないことがある。第23景『エトワール』。
ここで歌われる『エトワール』という曲は、2008年一月に世界館で行われた『エトワール』という公演の主題歌だ。この公演は、当時の娘役のトップにいた北原沙織の退団公演で、この曲は「彼女の退団のために作られた曲」です。
今回聞いた方はおわかりのように、歌詞も曲もとてもいい歌なのですよ『エトワール』。だからこの曲を「OSKオリジナルの良い曲」として歌うことは、まあアリかなと思う。じっさい高世麻央がソロCDでこの曲をカバーしたし。
しかし、退団をする娘役が、退団公演でこれを歌うということになると意味がちがってくる。北原さんのサヨナラのためにつくられた曲を、なんの前置きもなしに別の娘役にサヨナラで歌われたら私は納得がいかない。
たとえば松竹座で名倉先生が、2007年春のおどりの『ラストショー』という場面を、同じ振付で『ジャストダンス』と景タイトルだけ変えて2回再演した。その時に先生から「この場面はOSKに踊り継いでいってほしい」という思い(卒業していく大貴誠→トップになった桜花昇ぼる→トップになった高世麻央へ、そしてずっとその先まで、と私が勝手に読み取った思い)が語られた。私は2007年の『ラストショー』を宝物のように思っているけれど、名倉先生の思いも理解するから、再演にも納得するのである。
今回、折ちゃんが「最後にはあの曲を歌いたい」って希望したとか、あるいは先生が「折原にぜひこれを」とか(ちなみに『エトワール』は芹先生が演出でした)、劇団が「あの曲は、娘役が退団する時のための曲として歌い継ぎたい」とかいうことであれば、ちゃんとそう言ってほしかった。そう言われれば文句なんか言いませんよ。べつに舞台で言わなくたってプログラムに一行そう書いてあれば、こんなモヤモヤはしない。
(この作品に限った話ではなく、外部の発表会でやったのと同じ場面を武生にそっくりそのまま持ってくるとか、和倉でやったのを松竹座でやるとか、OSKの公演でそういうのをなんども見てしまって、この世界はそういうもんなのか、いやちがうだろうそこは、と思い続けてきたので、今回のことも、よりによって退団するという公演の退団者のメイン場面でそれだったことに普通以上にひっかかってしまった。場面の再演というのは意味のあることであって、使い回しというのはただの怠惰だと思うので。こんな時に、客に、使い回しだとか思わせないでほしいです)
(でもこのことも折ちゃんがほとばしる水で洗い流してくれるでしょう)
(なんの本だったか忘れたけど、「アルプスの水をかためて磨いたような透き通るレンズ」っていう文章があって、それ読みながら「折りちゃんみたいだなあ」と思っていたことを思い出しました。そんな透き通った瞳でちろっと横目をつかう花魁さんのお写真を最後に)
(おまけ)
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