真夏の昼のハイダウェイ
荻田浩一『ハイダウェイ』@シアターエートーは、素材を選んでいい腕できっちり料理された一皿で、味もコストパフォーマンスも良い、ちょっと珍しいし食べて満足なんですが一皿でいいや、と思いました。一皿食べおわる頃には「ふう」という気持ちになる。わくわくもドキドキもしなかった。それは料理のせいではなくて私の嗜好と体調のせいである。なので料理はほぼ素晴らしい。
(話は違うけど、HKTのニューシングルおよびMVを見た私の気持ちは「カールのチーズ味をたべて妙におなかいっぱいになった気分」か。私はカールはカレー味が好きなんで、チーズは「キライじゃないが……まずくはないが……」というものなのだ)
(このシングル出て見て思うのは「5点リードされてて6回裏に1点返した」感じ。意気盛んとまではならない。あと3回で失点おさえ逆転ができるのか)
こんなに仕込みに手間がかけられたちゃんとした美味しい料理って、OSKにはほとんどなかったので、そのことには「すげえ」「ありがたい」という気持ちが強い。荻田先生ありがとう。
同時に「じゃあ今まで見せられてた他の作品て何だったんだよ」とも思う。レビューカフェは仕方ないとしても(ほんとは仕方なくない)、これぐらいのことはできないものか。……できないかもなあ。私も『ハイダウェイ』の箱書きまでは書けたとして、音楽と装置と照明を用意することはできんもんなあ。でも、他の先生がたは音楽家も美術家も知ってるはずだが、ハテ。
私は『ハイダウェイ』見ながら13年前にOSKで上演されました『クラブ・タキシード(ClubTUXEDO)』という作品を思い出していました。ちらっとだけ似た場面があったので。パクリとかそんなんではありませんよ(そんなこと言ったら物笑いの種になる)。世界館という小さな劇場でやった、駄作というか珍作というか、見どころといえば「男役のトップ二番手が出ただけ」というダメ作品だったんですけど、今思うにあれ、構想段階では頭の中に『ハイダウェイ』みたいなものが広がってたんだろうなあ……とモノガナシイ気持ちになります。能力資力の圧倒的足りなさ。
以下さみだれ感想。
・水妖の場面だけど、あれは男のほうが女を助けきらずに自分だけつい生き残っちゃったわけでヘタレの腰抜けの卑怯者。その哀しさが出たら泣けた。ただの悲劇だと悲しいだけ。哀しいのが胸を打つ。
・だからあそこは翼が歌っている「あの風は彼女の囁き」で終わりにしとけばよかったなー私としては。その後の「水底に沈んだ硝子の欠片で自分の腕に彼女の名前を刻んでその流れる血で云々」は蛇足。ヘタレ男がなにかっこつけてんだよ、となる。せっかくきれいに終わったと思ったのにー。
・場面ひとつがガラスでできてて継ぎ目が溶け合ってるような、そういう構造の作品なんですね。だから、「どこが中詰めで」とかそういう概念はない。けれどやはり自ずと密度の濃いというか濃度が高いというかそういう場面はある。それが「船、歌う水妖」に「庭園」に「画廊」の3つかと思うんですよ。いちばん意味あいが打ち出されてる場面。で、その濃いやつ3つが私としてはどうもあんまり好みじゃなかった。どっかで見たような気がしたし。歌劇における通俗とでもいいますか。とくに薔薇の精なー。
・最初に薔薇の精が出るって聞いたときはただちにニジンスキーのアレ↓
を思い出し、翼がやるなら似合うかも!と思ったけどさすがにアレはなかろう、ならもっと思いもかけぬすごい薔薇の精が……オギーだし! と期待したもんで、壁から出てきた時にはがっかりしちゃいました。
・濃い目の場面をつなぐとろけたガラスの部分のほうが見事だと思った。「列車の中にて」、が私はいちばん好きだったかも。しかしもうちょっとマシな衣装着せてやろうよ列車の客2人。……あんまり気にならなかったとはいえよく見れば「いつものOSKのダサ衣装」は各所に現れていたのでした。それをそれほど気にさせなかったというのはやはりこの作品はすごい!
・「画廊」で麗羅さんに映し出される映像の有り様がどっかで見たことある……と思って今思い出した。山岸凉子の『悪夢』に出てくる一コマ。あっちはおっさんでしたが。
・荻田作品て合田佐和子みたい(最初に載っけた画像は合田佐和子のオブジェです)。気持ち悪さと可笑しさとかっこよさがとろけて固まったような。なら嫌いなわけないんだけどなあ。城月さんの肖像を合田佐和子に描いてもらってそれをポスターにしたらどんなに素敵でしょうか。で、内容はグロテスクで可笑しいようなやつで。
・出演者はよくやった。でもこれぐらいはやって当然という気もする。別に驚かなかった。私が「あ、これはいいな」と思ったのは華月が赤いドレスで歌ったソロ。可愛かった。
・そしてこれぐらいの完成度の作品が「最低限」であってほしいと思います。
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