不味いはなんて美味しい

『ベルリンは晴れているか』を読んで、どうも登場人物の語り口調がひっかかってしまっていた深緑野分。何がひっかかったというと地の文はすごく地味でヘビーデューティーで読みやすいし好みだったのに、登場人物の口調がどうもBL小説のような……うまく説明できないんだけど……「〜〜でさ、」みたいな語尾というか、カギカッコの中だけいきなり素人くさく感じて地の文をいい調子で読んでいてもところどころつっかえる。ラストが「長い手紙」で、ふつう手紙って話し言葉じゃ書かないと思うんだがこれがぜんぶ「〜〜でさ、〜〜なんだよな」文だったので「ふつーの手紙の文章にしてくれれば直木賞取れただろうに」とか思ったりしたものでした(いや、『蜜蜂と遠雷』が直木賞取るならこっちには直木賞二つあげてもいいと私は思う。つかさー、『蜜蜂と遠雷』って、私にはけっこう許せないもんがあったよ、天童荒太の『永遠の仔』と並んで。読み終わって壁に投げたぞ)(それはウソ、永遠の仔は投げたけど、蜜蜂のほうはKindleで買ったんでスマホを投げるわけにはいきませんでした。話がそれました)。この、「語り口調にひっかかる」のは木原音瀬もそうで、いったん気になりだすとするする読めなくなってくるのでめんどくさい。でも深緑さんも木原さんも話の運びは面白いことは確か。最後まで読んで結末が弱いというか甘いような気がする時があるんだけど、そこに至るまでが面白いからいい。

と言いつつ、木原さんのは何冊も読んでるが深緑さんのは『ベルリン』しか読んでない。で、鹿児島行く途中に寄った岡山駅ビルの三省堂で『戦場のコックたち』が文庫になって出てたので旅のお供に買ったのです。

 

創元推理文庫なので、これは推理小説なんだろうか。WW2でD-DAYのあたりの、アメリカ軍兵士が主人公。それが炊事担当で、コック仲間と軍隊で起こるいろいろな事件について巻き込まれたり探ったりしているのだが、それと平行して殺したり殺されたりもしている。わりと凄惨な舞台。で、やっぱり地の文がうまくて、ディテールの描写だけでうっとりできます。死体がいかなる状態になってるかも簡潔にスパッと書かれていて、へんな死体趣味みたいなものもないしドライ。……そんなことより、

この本は、う ま い !

読んでるとお腹が空く。戦場のレーションとか、乾燥卵とか、野戦グリルの料理とか、うまそうなものはない、というか「まずいもの」が山ほど出てくる、そのまずそうなのが美味そう。仕事が終わらなくて家に帰れず、12時過ぎると館内のエアコンも切れていきなりむっと暑くなってくる、そこで窓をあけて、下のサンクス(というコンビニってもうないんだっけ?)に亀田のカレーせん(or亀田の黒胡椒せん)とペットボトルのコカコーラゼロ買いにいき、また事務所に戻ってコーラとカレーせん一袋一気食い。その、うんざりするようなうまさ。こんなことやってたら身を持ち崩す、と体がビンビンに注意信号を発しているのにせんべをばりばり食いやめられない。ほんとにあんなうまいものはあっただろうか。吉祥寺のニューバーグの、何が入ってんのかわからない肉っけを感じないハンバーグと、キャンベルのコーンスープ(たぶん)のセットの、悪そうなうまさ。そういううまさがページの間から汁になってしたたりおちるような本でした。ストーリーについては、ラストまでいって「これはやっぱり甘い」と思ったけど私は甘い物が大好きなのでこれでいいや。