2019年の収穫は「ちゃんとしたもの」

2019年舞台ワンツー

2019年の舞台ベスト3を選ぶ。

1位 『仁義なき戦い~彼女(おんな)たちの死闘篇~(キャストA)』博多座
2位 『春のおどり 春爛漫桐生祝祭/STORM of APPLAUSE』大阪松竹座
3位 『         』

3位は内緒とかヒミツとかじゃなくてどう考えても決められなかった。キ上の空論『ひびのばら』か……とも思うんだけどどうもそれは無理してる気もするし、『海神別荘』と『円卓の騎士』は悪くない作品だということはわかるが(そしてOSKに「悪くない作品なんてものすごく少ない」ということも身にしみてわかってるが)私はそれほど好かないので個人的なランキングには入れない(上演当時はすごくほめた記憶はある。何しろマトモな作品だったから)。とにかく、客席で見てる時にカッコよさのあまりガタガタと震えがくるような作品を選ぼうとしたらこれしかなかったのだ。あ、もしかすると3位は『レビュージャパン(華月バージョン)@角座』か?……いや3位はないかさすがに。3、4がなくて5がレビュージャパン、ぐらいか。よもやレビュージャパンがベスト5に食い込んで来るとは思いもよらなかったですが。しかし、海神別荘よりレビュージャパンのほうがいいのか?と問われるとウッと詰まる。詰まるけどやっぱ入らないんだな海神別荘は。

世間と自分の評価の乖離なんていつものことだけど、乖離にも二種類あって「人それぞれ」と諦められるやつと「そらアンタ、間違ってるだろ!」とハラがたつというのと。『海神別荘@南座』『円卓の騎士』は、私がこれをあんまり好かんのはたぶん趣味の話で(『いだてん』をまったく見られなかったのも中村勘九郎と阿部サダヲとビートたけしに耐えられなかったからで、この3人が別の俳優でああいう演技じゃなかったら見たかもしれない)、いちおうちゃんとしてる作品には「私はこれを好かないが、好きな人がいるのもまあ理解しよう」と思うのだ。

で、今年は「ちゃんとした作品」ということについて考えることが多かった。

ラグビーワールドカップ盛り上げ企画の一環で『インビクタス』をテレビでやっていた。これを見て「ちゃんとしているということはなんとちゃんとしてるんだろう(©偽早川義夫)」とショックを受けた。
 

インビクタスは南アのラグビーチームとネルソン・マンデラを描いた実録映画。私は映画をほとんど見ない。映画館にはめったに行かないし、家で見るのは途中で気が散って見てられなくなるからもっと見ない。しかしこの『インビクタス』がはじまって見るともなく見ていたら目が離せなくなって、夢中で最後まで見てしまった。そしてしみじみ思った。「ちゃんとした映画というのはたいしたものだ」と。この少し前に『ダイヤモンド』という、元プロ野球選手(主演・高橋慶彦。その他、愛甲とか松永浩美とかギャオス内藤とか角盈男とか)が演じる任侠映画というのを見てたんですよ。
 

ま、はっきりいってB級映画以外の何物でもなく『柳下毅一郎の皆殺し映画通信』でもボロカスに殺されてたぐらいのものだったのですが、出演してる元選手たちが現役時代にいちばんプロ野球に熱中してた者からすると、わりと見どころはあって楽しめた(とくに高橋慶彦と松永浩美は良かった)。「けっこうイイよ!ダイヤモンドw」と高評価してたのよ。

でも『インビクタス』見たら、「ダイヤモンドのイイとインビクタスのイイはまるっきりちがうもんだ」ということがはっきりわかっちゃってさ。いや、これを今まで混同してたとなるととんでもないが、今までOSKでイイって言ってたのって「ダイヤモンド的楽しみ方」がほとんどだもん。『遙かなる空の果て』とか『ブルーアンバー』とか。「これイイよ!w」という、「w」の部分無しには成立しないっつーか。そうじゃなくて心の底から感動する脚本であり演出であり出演者の存在感という、そんな作品がいったいいくつあったのか。

でも、そんな作品はOSKにかぎったことじゃなくてどんな世界にも「ほとんどない」のかもしれない。インビクタスでショックを受けて「ちょっと映画というものを見てみよう」とNetflixに入ってみて、目につく映画を手当たり次第見てみたところ、見入っちゃうような映画というのはそうあるもんじゃなく、ためいきが出るほどつまんないものも山ほどあり(というよりほとんどがそうだった)、しかしやはりドキドキするような素晴らしいものにもたまにぶつかって衝撃を受ける。

2019年映画のベストワンは『2人のローマ教皇』。Netflix入ってよかった。

2人のローマ教皇

映画のほうが作品数は多くて予算だって多くて、それでもこの程度の打率なんだからOSKがそんな名作なんかにぶつかるほうが何かの間違いみたいなもんだろう。それで、今年のOSKは、円卓に海神別荘にレビュージャパン2ndSeason、そして春のおどり(日舞も洋舞も)と、

ちゃんとしてたぞ!

ということは今年のOSKはまあ、いい年だったのかも。桐生麻耶がトップスターになってくれてよかったよほんと。そして今年の舞台の第一位に選んだ『仁義なき戦い』でありますが、これって、AKBグループメンバーのみで男役も女も演じるっていうと、まるで『ダイヤモンド』的なキワモノと思うかもしれません。が、『ダイヤモンド』と『仁義なき戦い』はまるでちがうもので、というのも土台になった『仁義なき戦い』が、作品として「超弩級にちゃんとしている」ところにもってきて、演出および演技プランが非常に考え抜かれていたために、「名作をなぞって描いたモドキ芝居ではなく、名作をさらに新鮮に生まれ変わらせたさらなる名作」という奇跡の舞台だった、ということは前の日記にも書いておりますが、何回書いても書き足りねえー。

舞台、映画と書いたので音楽も。2019年のベストワンは『歳時記』3776。
 

こういうコンセプトアルバムが今聴けるとは。40年前のプログレぐらいすごい。プロデューサーでコンポーザーの石田さんもすごいが、井出ちよのもすごいわ。しかし今年、3776全国行脚で近所に来たから見にいってライブを見られてよかった。

ついでにマンガ。2019年のベストワンは『もふもふ』森栗丸です。
 

これ、全編いわゆる「いいお話」で、いいお話を蛇蝎のごとく嫌い、いいお話を見た瞬間に生理的にイヤーっ!と叫ぶ私にも、このいいお話はどっぷりしみます。これも「ちゃんとしてる」からだ。絵もストーリーも。

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