唯一無二の特別男

紫猫耳桐生麻耶

桐生麻耶が7月末でトップスターを退いて特別専科に異動する、併せて次期トップスターは8月1日から楊琳という発表がなされた。

つまり桐生さんはトップスターの地位から降りるけど劇団を退団することはなく「特別専科」という部門で活躍しますということで(つまりも何もないね。書いてある通りです)、これだけ見れば「悪くない人事」だと思った。だってトップスターをあと2年ぐらいやって退団、とかいうのを考えたら(フツーのトップスターはそういう道をたどる)、今トップやめても劇団にいてくれるほうが、桐生さんにとっても劇団にとってもいいよな。特別専科に行くからには、来年やめるってこともないだろうし。そもそも桐生さんがOSKを退団して外で舞台をやることは到底想像できないので(女優に移行するタイプじゃないしOGのショーとかに誘われるだろうがやらないだろう)退団=もう桐生麻耶の舞台は見られないということでそれはもったいなさすぎる。劇団としても、ちゃんと芝居をする人であり、(いろいろ難しいところもあるにせよ)劇団内で「空気悪くなってきたぞ窓あけるぞー」をやる人でもあるからそういう人がいてくれるのはすごく助かる。その「換気能力」を持ってるトップスターというのはなかなかいないので、というのも、トップスターなんてのはほぼ自分の適温にこだわって空気が悪くなるのなんか気づかないかどうでもいいという人たちだからです。それだからトップスターになるんだとも言えるが。

そういう意味でも桐生さんてのは、

唯一無二のトップスター!

だと言える。こういう人は劇団に「トップスターをやったことのある劇団員」として存在したほうがいい。当分のあいだは。

じゃあ「別に今トップやめなくたって。トップスターのままあと何年かやって、それから特別専科に退いたらいいじゃないの」という意見もある。確かに。でも、トップになって桐生さんは劇団に多くのものをもたらしたが、桐生麻耶という舞台人としてはトップになって劇団から何をもたらされたか?

撃つぞ!

(いきなり拳銃つきつけられてます、が、これは別に関係なくてただ載せたかったから載せただけです)

トップという地位と名誉(があるとして)も得た。松竹座でいちばん最後に真ん中で全出演者に迎えられるという立場、拍手と賞賛と憧憬を得た。あとは、『春爛漫桐生祝祭/STORM OF APPLAUSE』という、ここ十数年ではサイコーの「春のおどり」ももたらされましたのでそれだけでお釣りがくるぐらい、とも言える。

が、しかし。

桐生麻耶は、トップになってしまったから、トップスターという立場に(まわりが)縛られたんじゃないか、と思うことがある。たとえば『海神別荘』。あれはOSK史上では名作であるのは間違いない。でも私はそれほど好きではないなぜかといえば主人公の「海の公子」が桐生麻耶に合ってると思えないのですよ。いや原作読むと桐生さんでもイケると思うんだけどあの南座『海神別荘』における海の公子の演技というか演出というかあれは合ってなかった……。まあ、あれは元になるサクラ大戦版の海神別荘があり、それに沿ってってのがあるんだけど、あの海の公子像は「よくあるふつーのトップスター」向きで、桐生さんは「トップなんだからふつうのトップスターやれ」って言われたようなものだと思っている。

トップになる前も中劇場小劇場で主役をやって、そっちでも「そりゃ明らかにニンじゃない」という役をやらされることもありましたけど、桐生麻耶ならではの主役作品もあった、作品のデキは措いておいて(←余計なひと言)、……て、『刑事X』ぐらいしか今思い出せないけど。ううむ、よくよく考えるとあんまりないような(汗)。いや、カンタレラとか、桐生麻耶ありきの企画だという意気込みは感じる。作品がアレだっただけで!

とにかくトップになって縛られてしまったものが、トップを降りたらほどけるんじゃないか、それなら結構なことではないか。トップじゃなくなって舞台人としてもっと魅力的になったら桐生ファンにもOSKファンにも万歳三唱。ただし、OSKは「トップだろうが2番手だろうが、役者に魅力を発揮させる作品を用意できない」という大問題があるわけだが。ちなみに私は、桐生さんが演じた役では『桜彦翔る!』の瀬戸(←っていう名前)がいちばん「うっわーうまいなー、こりゃ桐生さんにしかできんなー」と舌を巻いた。主人公の親友という役どころで、ふつうこういうのはつまらんのだが、桐生麻耶がやったからいい役になったという見本みたいなものであった。あとは『バロン(再演)』のフィールド先生もよかった。これこそ「桐生さんにしかできない役」だった。全身緑色、銀のアフロヘアの、へんな先生。こんなのをはんぱな演技派がやったりしたら目も当てられないことになる。それをちゃんと可愛らしく面白く、しかし決して出すぎず、きちんと笑わせきちんとイイお話しにもっていった。桐生麻耶にはそういうことをやってもらいたい。

(しかしそれは「瀬戸を主人公にスピンオフ作品」とかいうことでは、

断じてない!

んです、頼みます。桐生さんは「主役をやりたい人」じゃない「いい芝居をやりたい人」である。それから、桐生麻耶には渋いオヤジ役がいい、老け役で脇を締めろ、というのも同様にして安易な考えだと言っておきたい。若い役をやらせろというのではない。どんな人物でも動物でも魑魅魍魎でも宇宙人でも、チャーミングに演じる人だって言いたいだけ。ただしちゃんとした脚本と演出なら! ああそれがいちばんのネックか……苦)
(あと、芝居でもショーでも、「専科で組ませとけ」はやめてね)
(ここ何十年ではじめての立場なのでうまく使ってくれないとがっかりもひとしおとなりますので)
(おまけにかわいい写真を)

トップスターと