あったかくて冷たくて甘くて苦い

緋波亜紀が退団した。退団公演がコロナ騒動で途中で中止になってしまったので、退団イベントは後日催されるそうだが、OSKの舞台人としては2月28日を以て終わったことになる。
緋波亜紀、ってもうパソコンにもスマホにも単語登録してある。退団したら使うことも少なくなるのかもしれませんが。でも「ひーちゃん」と口に出すことは多い気がする。

桜パラソルのひーちゃん

退団するとなるといろいろな思い出がよみがえってくる。私は近鉄時代のOSKはほとんど最後の一年ぐらいしかまともに見てないが、最後のあやめ池春季公演が『THE PHOENIX〜不死鳥伝説〜』という、あいた口がふさがらないぐらいの、子供だましと言ったら子供が怒るぐらいの駄作だったんですが、それに出てたんですよひーちゃんが。OSKの公式ファンクラブに入ると、あやめ池遊園地入場料と劇場入場料があわせて4百円Σ(@@!!!になるという特典があったからよく通ったんです。しかしすげえ経営だよなー。んで、席は自由席でおおむねすいてていつも最前列とかで見てた。

ひーちゃんは、悪の星である黒い星の魔王の手下。この子供だましなミュージカルの中で、黒い星の軍団は衣装がわりといかしており、その中でひーちゃんは、いい意味でオヤジっぽく、ワルの魅力とワルのトンマさが絶妙で、よく「真ん中に立てない人をテキトーにほめるためにいぶし銀と言う」のがありますが、そうではなくて「使い込まれてピカピカはしていないがよく切れる銀のナイフ」みたいでかっこよかったです。でもそれ見てる時にはこんなにずっと長く見続けることになるとは思いもしなかった。そのひーちゃんがOSK存続の会に残って、新しいOSKが立ち上がったりヒザついたりまた立ち上がったり走ったり転んだりしている歴史の中にずっといて、だからどうしても(こっちが勝手に)同志みたいな気持ちになるんですよね。

その頃はダンサーとして認識されてましたが、とにかくひーちゃんの芝居(ショーの中の芝居っぽい部分も)が絶品でしてね。今でも思い出す、桜花ちゃんが坂本竜馬をやった時の武生公演。桂小五郎をひーちゃんがやった(2010年『龍馬の夢』)。なんか、薩長がドンパチやりそうな時に、竜馬の説得を聞いてるというか聞き流しているような場面。毛利の家紋がバーンと後ろにあるところに、スッと立って、話を聞き流しながら持ってるライフル銃の照準を合わせる冷たい姿。もう絶品! この姿だけで、薩長の緊張から幕末日本のすべてが見えた……!と言いたいぐらいだ。私はこの年の武生は、このひーちゃん小五郎を見るために行っていたといっても過言ではない。でもDVD買ったらこのひーちゃんは映ってないので激怒。

また別の年の武生で、桜花ちゃんが信長やった時にひーちゃんが明智光秀だった(2011年『信長疾風伝 戦国の絆』)。(今気づいたけど、桂小五郎に明智光秀……明智小五郎か。「小五郎ちゅぁ〜〜ん」。すいません別の話でした)
信長に理不尽なまでに怒られて虐められて、挙げ句の果てに領地もへんなとこに国替えになり、明智の中で何かがプツッと切れる。切れて怒るわけじゃなくてじわーんと明智の心が凍っていく。ただゆっくり歩いて袖に消えるその歩みと冷たくなっていく表情で「本能寺の変」をすべて納得させてしまう、あの表情は忘れられない。それでまた、その時のBGMも静かで不穏でドラマチックで素晴らしかった。

こういう細かい芝居がすごくかっこいい役者だったのですよ。ひーちゃんの、こういう冷たい役をもっと見たかった。でもひーちゃんは同時にあったかい役もすごく良くてさ。『Happy! Happy Today!』(今や誰も知らないだろうこんな演目)(娘役4人男役2人で、娘役が座長といういかにもOSKらしい公演で小芝居つきのショーです)で萌川菜(ひーちゃんの同期男役だ)とふたりで幕間にコントみたいなのをやる、そこが上手で可愛くて可笑しかった。今こういうのないよなー。ここ数年、春のおどりで醜女役とかコジキ役とかやってて、ああいうのは一種の出オチで、よく見れば細かい芝居やってるけど「オチ」の部分が濃すぎて細かい芝居もぶっとんでるからちょっと惜しいなという気持ちがありました。特別専科ならもっと「細かい芝居」がドラマを動かすような、そういう役をやってもらいたかった。そういう意味で、『バロン 〜前よりもっと不思議な冒険綺譚〜』の「執事グローブ」、忠実な執事(というか家令だよねあれは)で、バロンぼっちゃまを大事に思っていて、仕事ができて、なおかつ愛嬌があってコミカルでドラマを動かす、幕開きとフィナーレ前はこの人が〆る、それがほんとに安心して幸せな気持ちになれるという、そういう役者でした。グローブさんの写真があったので貼っておきます。これ見ただけであったかい。そして面白い。

グローブさん

バロンとグローブ

ひーちゃん長いことありがとう。これからひーちゃんが、ひーちゃんに私たちがもらったぶんの幸せを天からどーんともらえますように。

可愛い緋波さん