OSKの陰陽師史(その2)

OSKの陰陽師史(その1)

近鉄がOSKの80周年記念公演をやり終えてから満を持したように解散を発表したのが2002年の夏。有志の劇団員で存続運動が行われたりしてる中、翌年5月のファイナル公演まで約10ヶ月の間に、こんないっぱい公演があったので今さら驚いている。

『ヒートアップレビュー(あやめ池特別公演)』
『恋はシャッフル(近鉄小劇場)』
『華麗なるファンタジー(和倉温泉加賀屋)』
『Bon Voyage!(あやめ池秋季公演)』
『Arcenciel~大空に架ける!~(たけふ菊人形大劇場公演)』
『新・闇の貴公子(近鉄劇場&日本青年館)』
『THE PHOENIX(あやめ池春季公演)』
『EndlessDream(近鉄劇場OSKファイナル)』

和倉公演なんか3ヶ月(!)もやってるんだからすごい。この中だと『恋はシャッフル』がいちばん規模小さい(&出演者も若手中心)公演だけど、今でいえばアート館公演ぐらいは手がかかった公演ですよ。近鉄劇場は前にも言ったように松竹座級の公演だし、あやめ秋季春季もほぼ同規模で2ヶ月強(!)、武生も同規模で平日3公演土日祝4公演(!)1ヶ月休み無し。これで存続運動もやってたんだからもっとすごい。

しかし、OSKの公演というのは、出演者はともかく脚本演出音楽などにトホホなものが多く、「作品はともかく技芸員の技術は宝塚に負けない(T^T)」とか歯がみをしていたもので、そんな中、解散で心揺れるファンの希望はこれ!であった。『闇の貴公子』を見ていたら、そらどうしたって期待が高まる……!

2002年『新・闇の貴公子 X(エックス)冥界参上。』

新・闇の貴公子

誰もおぼえてないけどこのサブタイトルすごいですね。最後に読点ついてるのも時代を感じさせる。そういや当時、『新闇の貴公子』は「シンヤミ」、『闇の貴公子』は「ヤミキコ」て呼ばれてたなあ。で、新とついたから続編かと思うとそうではない。狐の子に生まれて孤独だった安倍晴明少年が一人前の陰陽師になるまで、という前日譚。これは『闇の貴公子』でダブル主役の源博雅をやってた洋あおいが退団しちゃったので思い切って博雅ナシにしたという、これが続編にありがちな、前の敵キャラやエピソードをひきずって「あの人もいろいろあって……グフフ」みたいな、スピンオフという名の“志が低い公式二次創作”みたいなことをやらなかったのは素晴らしい。

安倍晴明は引き続いて那月峻で、あと闇も新闇にも通し役で出てるのは式神の維摩だけだ。両方出てる出演者はいっぱいいるが、これが見事に、前作とはタイプをがらっと変えた配役をされている。前作のラスボス蘆屋道満は、新闇では晴明の式神で可愛いキツネの精だし、前回は晴明の母として母性全開だった(でも戦闘力は強い)葛の葉は、こんどは父・平将門の恨みを背負って都で暴れる盗賊軍団の女ボス。隻腕の美女鬼はパワーを秘めた静かな巫女……という具合。今回は、

★安倍晴明
★晴明の式神たち
★小野篁&小野小町
★平将門とその娘・滝夜叉姫と俤(おもかげ)姫
★滝夜叉に率いられる袴垂(はかまだれ)党、頭目の袴垂保輔(やすすけ)

が主な登場人物。

安倍晴明はまだ少年。「陰陽寮」(陰陽師養成学校だ)で修行中、ずばぬけて成績いいので「アイツ狐の子らしいぜヒソヒソ」とかいってイジメられてる、けど孤独は式神と遊ぶことで紛らしてます。

式神は前回に引き続いての維摩以外は全員別神。キツネ(晴明の母ギツネとはどうも明らかにステージが違う感じの野良ギツネ風)、蕾(つぼみ)と玉響(たまゆら)。キツネは「反対言葉」を言うという、よくわからないヤツで、嬉しい時は「悲しい」と言うとか、いろいろめんどくさい。蕾はその名の通り花のつぼみ。玉響は水玉なので興奮すると蒸発しちゃう。

今回のラスボスはクールビューティー小野篁。妹の小町と道ならぬ恋に落ち、身籠もったことを苦に自殺した小町の魂を冥界から呼び戻し、バーターとして冥界の閻魔大王から「都の滅亡とこの国の破滅」を要求され、夜な夜な人びとを殺して魂を奪い、それを養分にしてゾンビ化した小町(でも美しい。ちなみに前作では藤の式神だった方です)とともに「死ぬこともできず」国を滅ぼさんと日々破壊活動を続ける。ふたりとも疲れ切っているのだけれど、篁は小町への執心だけでとにかく殺しと破壊をやめることができない。それに閻魔と約束しているから、途中でやめたらこわいし(舌抜かれるのかなあ、やっぱり)。(小野篁と小野小町が兄妹というのは史実としてありえないのだけれど、闇の貴公子の世界では「アリ」なんだと思わされる、そこもこの作品のパワーである)

平将門と娘たち。将門は体中を鎖で縛られた亡霊(ほれ、将門の乱で逆臣として死んじゃったから)。姉娘の滝夜叉姫は恨みを飲んで死んでいった父の無念を晴らすべく、袴垂党を率いて都を荒らす盗賊団。亡霊のお父さんが「ミカドを殺せー都を殲滅しろー」って言うから。でも実はそれは小野篁に心を乗っ取られて言わされてるんだ。そのことを、妹の俤姫は察知して、姉の暴虐を止めようとしてる、んだけど滝夜叉はそんな妹の気持ちがわからない。
滝夜叉姫は、大人しくて巫女の能力があり父に愛されていた妹にコンプレックス(と畏れ)があり、俤姫は自分にない強さのある姉が大好きで憧れている、けれど二人の気持ちはことごとくすれ違っていく。うわあああこれは……娘役でこういう世界を見られるって、これこそ「娘役のOSK」面目躍如ですよ!

袴垂保輔。袴垂党頭目。まっすぐな強いサムライ。滝夜叉姫の忠実な部下。だけど滝夜叉姫のことが好きなんだ。だけどそんな畏れ多いことと自分の心を殺している。そこにつけこまれるんですよ小野篁に。そして乱心してしまう。

で、今回のお話は(前よりももっとすごくはしょって書きますと)、
 

「晴明と俤姫の恋」「保輔の滝夜叉姫への片恋」「小野篁と小野小町の道ならぬ恋」がからみあい、閻魔に魂を売った小野篁がこの国を滅ぼさんとするのを、晴明の陰陽師パワーと俤姫の巫女パワー(そしてちっちゃな式神パワー)によって粉砕する。篁&小町、そして俤姫の魂は浄化されて天に昇る。愛するものを喪った晴明は「もう二度と恋はすまい」と泣き、最後に聞こえた俤姫の声とともに、闇の彼方へと光を放とうと誓う。
 

 
それにしてもこの保輔、のちの北林先生の『桜彦』におけるラバーナとまったく同じですよね。女上司に仕える忠実な部下が上司に恋する気持ちにつけこまれて悪のラスボスに乱心させられる……けれど最後は目覚めて自分で自分を殺す。『桜彦』観たとき「これ保輔じゃん!」となったけど、セルフぱくりというより、この構造もまた永遠の萌え設定ですよね。ダメな先生だと、萌え設定がバラバラとぶちまけられただけでそれっきり、なものですが、これは各所に設置された萌え設定(それぞれ萌えのタイプも違う)がからみあって最後にはぶっといヘビみたいになり、うねうねと動き出すかのような舞台なのだった。

滝夜叉と保輔

明神丸

最後の戦いのクライマックス、篁や小町や俤の魂が天に昇っていく……と、ダーン!と降りてきた中幕で「すべてが終わった静の世界」にしてしまう。私は客席を立ち上がることもできず、ぼう然としていたものです。「こんな舞台をやる劇団をぜったいに解散させてはならない」と。それから袴垂保輔の芝居がほんとに素晴らしくて、この役をやった人は存続に残るらしい、と聞いて心の底から「保輔がOSKに残ってくれてよかった」と思ったのだった。その保輔こそ、後のトップスター桜花昇。あ、もちろんキツネの式神もですね、後のトップスターです。それでも、これもビデオの再生装置がないので全編を見直すことができず、今から思えばいろいろと冗漫なとこや、やっぱりいらないコント部分はあったとは思うけど、名作と謳われた『闇の貴公子』の続編として、続編にありがちな「やらなきゃよかった…」感などない、前作を凌駕したとさえ思える作品だった。

さてこれも、OSKの現役でキャスティングしてみましょう。『闇の貴公子』の時のキャスティングはまるっきり忘れて一からやっております。安倍晴明すら別の人にチェンジです。
 

安倍晴明=楊琳

明神丸(キツネ)=白藤麗華
蕾=遙花ここ
玉響=紫咲心那
維摩居士=翼和希

平将門=登堂結斗
滝夜叉姫=唯城ありす
俤姫=千咲えみ

袴垂保輔=桐生麻耶

小野篁=愛瀬光
小野小町=城月れい

晴明は楊ちゃん。柄は合ってるし、最後に俤を喪って泣くところが、とても可哀相にやれると思うので。保輔の桐生さんてのは、桐生さんて「恋に狂う男」をやったことがないんじゃないか?と思い、これは個人的に観てみたいと思ったからです(桐生さん『新闇』に出てます。袴垂党の一味でした)。今回の飛び道具は「明神丸=白藤麗華」かなー。他にやれそうな人が思いつかなかったんだよね。麗羅リコもいいんだけどちょっとだけ重みが足りない(体重のことじゃない)。平将門と娘たちは思い切って若手でいってみました。小野篁と小野小町は「篁・城月れい、小町・舞美りら」なんてのも考えて勝手にわくわくしましたが、

ほぼムリ!

愛瀬は篁やったら人が変わるぐらいいいかもしれないと思いました。

とにかく、『闇の貴公子』も『新・闇の貴公子』もすごいいい舞台だった。OSKには闇の貴公子があるから大丈夫だ、と存続運動やってる人は思ってただろう。私も思っていました。それがしかし思わぬ方向に進んでしまうのである……。
(つづきます)