OSKの陰陽師史(その3)

OSKの陰陽師史(その1)
OSKの陰陽師史(その2)

2003年5月25日の『Endless Dream』千秋楽で近鉄を親会社とするOSK日本歌劇団は終わりました。その後は約三分の一の劇団員数で『OSK存続の会』が活動を続けます。

存続の会の最初の公演は近鉄劇場での『熱烈歌劇 re-BIRTH』。闇の貴公子の北林先生です! しかしこれはショーなので陰陽師は関係ない。歌劇団をリストラされてハローワーク行くとか、そういうショーで私はこれはけっこう好きだった(何しろ、解散したといわれた劇団が、解散公演やったのと同じ会場で再生できたんだから。それに私は何にせよ「あらゆる作品は、変わってれば変わってるほどいい」というのが基本的な考え方なので、職安が出てくるショーとか嬉しいです。それに職安だけじゃなくてごくふつうの椿姫とか鳴神とかの場面もあったし。ともあれ、これは「まずは存続しましたよのご挨拶」で、しばらくしたら『続・闇の貴公子』とかがぶちかまされるはずだ!と思ったわけです。が……その後、北林先生の登板はピタリと止まる。

けれど陰陽師は北林先生がいなくても出た。まずはこれ。

歌劇奉納 陰陽師安倍晴明

2003年10月3日、京都の晴明神社での公演です。阿倍野にも晴明神社がありますが、京都の晴明神社は、あの「あの世からこの世へ戻る橋」の伝承でおなじみ「一条戻橋」のそばにあって、こちらのほうが陰陽師をガンガン売りにしてる感じ。そんな本場で陰陽師ミュージカル! 夜、境内の野外舞台で演じられたものでして、出演者4名。まあ、公演というよりはイベントの範疇かもしれませんが。奉納ですから。

登場人物は安倍保名(晴明の父)と、葛の葉(晴明の母)と、叢雲(ムラクモ。道満の式神で蜘蛛の糸が武器)と、安倍晴明。この内容をすっかり忘れている(汗)。保名とキツネが結婚して晴明が生まれ、立派な陰陽師となり蜘蛛の式神と戦って勝つ……「絵解き・安倍晴明」みたいな。歌もあったしダンスもあったし舞もあった。でも規模からいっても内容からいっても『闇の貴公子』とは別モノ。安倍晴明が出てくるショーの一場面というか。それでも、とにかく、この公演によって「新しい安倍晴明」が生まれたのだ。桜花昇の安倍晴明である。

衣裳などは『闇の貴公子』のものを流用して、こういう場合、「後から演じるほうは不利」になりがちなのに、桜花昇の晴明は「全世界がこれを待っていた!」というような美しさで、新晴明はなんの抵抗もなく受け入れられたのだった。

ここでファンに「ある期待」がジワジワと芽生え始める。そんな時、これが投下された。2004年9月11日12日、阿倍野区民センター大ホール。

陰陽師 安倍晴明 闇の双璧

闇の双璧

この演目が発表された時のファンの嬌声を聞かせたいぐらいである。
 

キターーーーーーーー!!!

 
晴明と道満ですよ! 『闇の貴公子』の道満様の見た目のカッコ良さはすごいものがあったし、桜花昇の晴明の美しさは晴明神社で確認済。時は2004年、松竹座で66年ぶりに『春のおどり』を復活、OSKは大貴誠と桜花昇が両輪で引っぱっているような、そのすごい車輪の回転まっただ中にファンは放り込まれて(いや、飛びこんでか)頭のネジがぶっとんでいた時代です。そんな火花散らしてるファンにさらにガソリンをぶっかけるようなこの演目! 爆発的炎上!いい意味の燃え上がり!

桜花昇は『新闇』の袴垂保輔、畢生の名演技が頭にこびりついておりましたが、その後、NewOSKの公演ではガッツリ芝居をするといった演目がなく(トホホな忠臣蔵ミュージカルの浅野内匠頭役なんてのはあった。美しい役だったがいかんせん内容がトホホで)、ついにその舞台がやってきた。「善の桜花、悪の大貴の対決」なんて、ものすごーく見たかったんです、双璧の戦い!

……しかし。私たちは大きな思い違いをしていた。『闇の双璧』は『闇の貴公子』ではなかった。作も演出も別人でした。音楽もちがう人でした。まったくちがうお話でした。

だけど、陰陽師って、安倍晴明って、蘆屋道満って! あれだと思うじゃん! 晴明神社の歌劇奉納の時は道満がいないし、まあ境内のイベントだし、というので芝居は期待してなかったから、これが出てきた時に「ついに来た!」って思うじゃん!

初日初回の幕が降りた時の、客席の空気を見せたいぐらいである。

(゜д゜)ポカーン…………

初日の初回を見るようなやつは、当然二回目も見るのである。二回も見てしまったのである。そして悪夢の一日目が終わったあと、「明日も二回見なくてはならない、計四回もこれを見る」ファンたちは、どうにもおさまらず居酒屋で男泣きしながらオダをあげたのである。どうして、どうしてこうなった……

登場人物は、安倍晴明と晴明の式神(朧月)、蘆屋道満と道満の式神(夕凪)(叢雲)、葛の葉。式神の叢雲は晴明神社でも出てたのと同じ。ストーリーは……まあ晴明と道満が戦うんですけど……なんか「ミカドに重用される晴明」と「民に慕われる道満」みたいな……村の民たちがみんなで「道満さまがいちばんじゃ〜〜」「そうじゃそうじゃ」「晴明がナンボのもんじゃ〜」みたいな……え?……んで、道満さまも「うちの娘が川で溺れた〜〜」と顔見知りの村のおっかさん(折原さんだ…)が駆け込んでくると「おうよっ!」(←これが道満さまの口癖…)とばかりに川に飛びこんで助けるとか……え……「道満さまはカネや名誉に興味のない、気さくでいいヒトな陰陽師」ということがこれでもかこれでもかと……

赤ひげ陰陽師……!

こんな道満を見たいんじゃないんだよ(T^T)。どっちかといえば青ひげ的なものをファンは道満に求めてるんだ(T^T)(T^T)(T^T)

それでは晴明はどんなんだ、といいますと、これがなんというか、あまり描かれてないといいますか、美しくクールな陰陽師っていうイメージフィルム見てるみたい。せめてなんかエピソードを、ということで母の葛の葉との絆みたいなのを紹介する場面がありますが、これがとってつけたような場面でおまけに平面的で長い……。これ、晴明ファンには「何が陰陽師安倍晴明闇の双璧だよ、演出家晴明描く気ねえのかよ、双璧ですらねえよ!」という怒りがわき、道満ファンは「こんな道満が見たいんじゃねえよ……」とがっくりくるという、どっちにも美味しくないお芝居なのでした。こんな平等いらねえ。

それで、こんな赤ひげ道満と晴明がなんで戦うのかってのが、よくわからんのだ。村人が「道満さまが本気出せば晴明なんかやっつけちゃう〜」とか言うもんだから、道満は「おうよっ!」とばかりに式神を放って晴明を殺しにかかるんだけど。なにその無意味な殺生。その後、ミカドの御前で超能力対決をすることになって、こんな時こそハデな術合戦をやればよさそうなものですが、「つづらの中に何があるか当てる」……。そこで道満さま、晴明に勝ちを譲ってるし。ちなみに「つづらの中から出てくる老婆」の役をやったのが当時学校生で舞台実習として出演していた虹架路万。「誰だあの芸達者は」と場内をザワつかせてました。その老婆にも親切できさくな道満。いらねー。

式神もどっちにもチョロチョロ出てきて出たり消えたりしてましたが、たいして意味なし。

ここまででもたいがいがっくりきておりますが、きわめつけはラストです。晴明と道満と戦って、道満は可愛がってる式神の夕凪を晴明にやられてしまい、さあここで怒りでメラメラ本気の戦闘開始か、都は炎に包まれるのか!と身を乗り出したら、晴明が「満月だから戦いやめぬか」。は? そしたら道満も「そうだな」なんつって酒呑みだして、するとその酒に毒が仕込まれていて苦悶して死ぬ……かと思うと毒を呑んだフリしてただけでした。は? 晴明と道満、仲良く声を合わせて「陰陽師、鬼には勝てても毒には勝てぬ……か?」「わっはっはっは」。幕。

…………。舐 め と ん か !

ただし、晴明も道満も、ビジュアルはよかった。そこは後世に残る。

桜花晴明

大貴道満

ニコ動に道満だけをセレクトした動画があったので貼っておく。

これだけ見るとちょっといいかもしれない、と思うけど、いいとこだけつまんでやっとコレなのであって、DVDをあらためて最初から見たらやっぱりどないもこないも……。今となっては笑えるとこもあるが(というより笑うしかないのだが)、演出にメリハリはなく、とくに晴明がらみのところはのた〜〜〜っとして早送りせずにはいられない。主題歌がヒーロー物みたいで悪くないが、それは別に求められてないところだしな……。もう現役でキャスティングする気にもなれんわ。

なんで陰陽師でこんなことになっちゃったんだろうか考えたんですが、作演出の人は『銀座浪漫派物語』という芝居を手がけてる人で(2009年博品館、2005年東京芸術劇場)これ見たら典型的な「人情モノ芝居」なんですよ。ああ、陰陽師も人情モノとして処理したのか。似たようなことやろうとして劣化物を出すよりは(おにのしろみたいな……ぼそ)自分の得意範囲でやろう、と。それはわかる。わかるけど、それなら最初からそうとわかるようなタイトルやチラシにしてほしかった(´Д`)。というよりもまず劇団! 陰陽師やろうというならこの人に頼んじゃダメだ!

この『闇の双璧』で、OSKファンはちょっと憑き物が落ちたというか、「陰陽師……ま、しばらく忘れとこか」みたいな感じになったのですが、劇団はそうではなかった。とくに桜花ちゃんの晴明を見て、「これは桜花昇だけじゃなく男役のスターには使えるネタだ」と思ったようなのだ。それで、また新たな晴明が誕生する。
(つづきます)