ガラスの楊琳

玻璃琳

楊ちゃんを見ていると胸が痛くなる、ことがある。この人は何かを背負いすぎている。

これは私がそう感じただけだと断った上で書くが、楊ちゃんは前からトークの時にはしゃぎすぎると思っていた。とくに、自分じゃない誰かがしゃべった時のリアクション。それも、なんとなくビミョーなトークの時。あんまりまわりが見えていない人が空気を読まないトークを繰り出したような時ですよ、そういう時に楊ちゃんは率先して話を拾っていっぱい大げさにウケてみせる。そういうのを見るたび「あーあ」と思ってしまった。が、それほどビミョーではないトークの時はそんなにはしゃいでいないということに気がついた。

楊ちゃんが「空気を読まないぐらい目一杯ウケる」のは上級生、序列が上、主役、の発言がビミョーな時だ。下級生のトークがビミョーな時はわりとあっさり流す。適度につっこんだり転がしたりもする。場の空気は人一倍読めるんだよ楊ちゃんは。先日配信されたブルックリンパーラーのファンミーティングで「心理テスト遊び」みたいなのがあって、よくあるでしょう「劇団員を色にあてはめてください。赤といえば?」「うーん桐生さん!」「赤はあなたのことを好きな人、でーす!」「きゃー!」みたいな。それで、何かの色が「友達未満だと思ってる人、でーす!」ってのがあったわけですよ。どの劇団員の名前挙げたって「友達未満と思ってるなんてまずい」からネタとして笑えるのだが、OSKにそういうネタをうまいこと転がせる人はほぼいないわけですよ。その時に楊ちゃんがさらっと言ったのが、

「劇団員同士は友達にはなり得ませんからねー」

うわ……か、かっこいい……

こういう冷めた視点というのを楊ちゃんは持ってるんです。それでいて、別に水ぶっかけるような言い方じゃなく、苦し紛れでもなく、ごくフツーなこととして言ってて、それがかっこよかった。これは私がそう見てるだけだと断った上で書くが、楊ちゃんは偽善や欺瞞には誰よりも冷めたい人である。心にもないことを言った本人が気づいていなくても、聞いてる楊ちゃんはちゃんとわかって、微笑みを返しながらその微笑みはかすかに皮肉に歪んでいる(ええ、勝手にそう見ているだけです)。すごく聡く人の心を読めてしまう貴族の子供というのがいますがきっと楊ちゃんはそういう子なのだ。

ということに気がついてみると、楊ちゃんがビミョーなトークで大げさに拾ってウケてることの意味が見えてしまった。きっと耐えられないのだ、その空気に。相手に噛む勢いでのけぞって笑ったりでもしなきゃいたたまれないんだ。

(ところで、歌劇において「面白いトーク」というものはほぼ「成立しない」。アイドルが、最初は地獄のようなつまらんトークをしていても、劇場やライブで鍛えられてどんどんうまくなるので、OSKの劇団員も数こなせばうまくなるんじゃないかと思ったことがあるが、それムリなのよ、構造的に。なぜならOSKや宝塚は「下級生が上級生をつっこむ」ができないから。鞏固なる「させていただく」文化。そのことを逆手に取った下級生のネタトークも難しい。唯一の例外として「城月→桐生」というのがあるけどこれは特殊例。だからトークはすべて「台本つきのご挨拶」にしとけ、と思ったりするんだけど、そうもいかないのだろう)

まあ、現在のトップの桐生さんはそれほど空気読めない人じゃないから、桐生さんと一緒に出てる楊ちゃんはそんなに心配いらないんだけどさ。それに4月には楊ちゃんがトップになるわけだ。序列一番になることは楊ちゃんにとってやりやすくなる(いろいろな意味で)。けど学年というものがあるんよな……。あと、楊琳ライブの配信見てて、ZOOMで参加した客、そして見えない客に対して、サービスしすぎ…。そら、歌劇の世界において先輩よりもさらに客のほうがえらくてつっこむことはもっと不可能なので、しかし舞台と客席との交流は歓迎されてるわけで、そうなると楊ちゃんはああいうふうにやるしかなくなるみたいで、「この際、客なんかいいようにテキトーにそのへんにほっといてくれていいんだよ」と言いたい。あなたのサービスはあなたの存在そのものなので。まわりの人があなたを讃えればにっこり微笑み、お追従をいえば憫笑してやればいいのです。楊琳はそれで通るスターです。

誰でもできるわけじゃない…
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