一戦交える、という言葉

一戦交える

時代小説を読んでいたら濡れ場になった。濃厚なものではなく、侍と女が布団に倒れ込む程度であるが、なんだかやたらと色っぽかった。それというのも、女が侍にすがりついて、
 

だんな様、どうかお情けを……!

 
って言ってたからだ。

この「お情けを……」というのは、女か女役(衆道などの)が言う台詞であり、「女(役)のほうからやってくださいと頼む」時に発せられる。「やってくれ」じゃあんまりだから婉曲、かつはしたなくない表現を追究してこの言い回しができたとみる。

この台詞、別の小説でも読んだし、時代劇映画でも聞いたことがあるし、時代劇劇画でも見たことがあるので、ある時期まで「ふつうに使われる言い回し」だったと思われる。最近はめっきり見ない。字面だけ見ればあっさりした平凡きわまりない言葉なのに意味は深い。意味深とはこのことか。
 
こういった美しい言い回しを今こそ蘇らせよう、と言いかけたところで立ち止まる。

お情けを「い た だ き た い」

なんでそんな下手に出るんだ。なんかこれだといかにも女(役)の立場が下みたいでイヤ。SDGsとか言ってるこの時勢、あらゆる場面で対等でありたい。これもいつか呼んだ時代小説に出てきた、
 

一 戦 交 え よ う

と言い回しは、いかにも双方とも対等でポジティブな感じがして良い。これからはこっちを推したい。


あるテーマで原稿を依頼されましてそのテーマで二つのネタが思いつき、両方とも書いて送ったところ(本当なら自分でちゃんと選んで1本送るのがスジなのですが)こちらではないほうが採用されたので、採用されなかったほうをここに載せました。たぶんこっちは落選するだろうなあとうすうすわかってたのですが。

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