翼をください

やっぱりちゃんと生でこの目で見ないとな、と思ってブルックリンパーラー大阪(以下BP。BPOと略そうと思ったけどそりゃ「放送倫理・番組向上機構」だよ。どうかBP公演では倫理の向上を目指してほしい)に『ダイヤモンドガイズ(以下DG)』を見にいった。こないだ、BPで『Delight』を見て、生で見た時のパワーみたいなもんを痛感したので。ネット配信はありがたいものだが、配信の限界はある。

どうして「この目で確かめる」とか言ってるのかというと、『DG』で流れてくる撮可タイムの画像や動画が私の好みじゃなかったからだ。しかし撮可タイムは全体の一部分だし全体見たら印象変わるかもしれないし。それで見てみたら、印象が変わった。正直、若手男役の見た目に頼ったやっつけみたいなショーだと思ってたんです。そんなことはなかった。BPでやってる公演の中じゃ、構成とか振付とか、けっこう上位に来る作品なんじゃないのか。しかし、全部見ても私の趣味には合わなかった。それは私に合わなかっただけなので、そのことはいい。そうじゃなくて、この『ダイヤモンドガイズ』で考えさせられたのは翼和希のことです。この公演の座長。

ダイヤモンドガイズの翼を見て私はすっかり感心してしまい、以後「翼プロ」と呼ぶことに決めた。

翼プロ

翼プロはすごい。圧倒された。しかし、圧倒されつつ、考えこんじゃったですね、OSKのスターがBPの公演に出ることの意味を。

私はずっと前から「楊琳はBP公演に出てはいけない」と言っていた。で、楊ちゃんとは別の意味で「翼プロはBP公演に出てはいけない」と思いましたわ。楊ちゃんはBPではさえない。松竹座ならあれほどいいのに。BPに立たせてたら楊ちゃんの美をどんどんすり減らしていくからもう出てはいけない。それに対して翼プロ、まるで不動明王の如くBPに君臨していた。歌もダンスもステージングも、髪型(曲によって細かく変えてくるのだがそのさりげなさがすげえ洗練されていた)、衣裳の着こなしから表情のつけ方、目線の飛ばし方に至るまで、はっきりいって、

完 璧 !

である。さらに、顔がきれい。目に力がある。瞳に常に光がある。体全体からエネルギーが湧き出て、もう背後から炎が吹き出るような存在感だ。快慶作の不動明王が醍醐寺にあるが、DGの翼を見ながらあれを思い出していた(もっと似てるのは、高野山の運慶の制多迦童子)。

醍醐寺の不動明王

この人は男役にしては小柄だが、小柄だからこれだけ炎を吹いてるのだと思う。怒りや闘争心や自信や野望が深紅の火炎となって放射されてるんだ。

と、このようにすごい「プロ」の名に恥じない翼和希。でも見れば見るほど、「BPにカッチリ収まってる……」。それでいいのか?

これって難癖だろうか。たぶん私がBPというハコを、ほんとはOSKがやるべきハコじゃないと思ってる、ってのもあるんだろうけど。だから楊ちゃんがBPでさえないと、どこかで安心してるのかも。君の舞台は松竹座だよ、檜張りの舞台だよ、と思うから。BPが、ある時期の世界館みたいに、OSKにとって大切な場所だろうというのはわからないでもないので(とくに、若手の劇団員にとって)、BPでいいとこ見せるのは当然だし、客としてもいいパフォーマンス見たい。そして翼プロのDGにおけるパフォーマンスは文句のつけようのないものだった。でも、たとえば『Every Little Stars(3rd)』で感じたような、BPの天井や壁がふっと透けて世界がひろがっていくようなものを、私は求めてるんだな。BPをBPではなくしてしまうようなものを。DGの翼プロは、BPという厨子の中に収まった不動明王みたいだった。重文級の素晴らしさではあるのだが。でも「BPなんかでそんなことやってる場合じゃないだろう」と思っちゃう。勝手なことを言っております。翼プロはどんなハコでも自らの厨子化する能力があると思われるので、それなら松竹座を厨子にしてくれよと思う。それを見せつけられて喝采を送りたい。その前にまず武生か。

制多迦童子

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