抜髄

きのう、「日舞は前方席で見たほうがいい」について理由を書くと言って書いてませんでした。『桜狩り』その他、至近で見ると、桜花ちゃんやことりちゃんはこちらにガンガン押してくるタイプの美貌だし、その人たちがさすがにふだん見ないような豪華な衣装をつけているので「まあきれい」と思ってアラが隠れるから、でした。書くのもナサケナイとほほな理由ですね。でも近くで見ると着物の着こなしのきたなくなったりするのも丸見えなんだよな……。いや、でも『桜狩り』の一連の場面は後ろのほうで見てたら置いてかれると思う。カブリツキのほうがその世界に入れる。というかカブリツキでないと入れないってのがたいへんに困った事態なのだけど。

日舞が終わって洋舞です。
見てる途中で「あ、これは去年の春のおどりの洋舞よりは好きだ」と思った。
去年の春のおどりの洋舞って、今思い出そうとしても思い出せないほど私には「何の印象も残らなかった」というショーで、ブログ感想界が感想のすべてとは思いませんがしかし去年の春の洋舞が「中村一徳が手がけた松竹座のショーではいちばん」という意見がけっこうあったのが私には到底理解のできないことでした。前にも書いたかと思いますが、宝塚歌劇団を見ていた頃、ショーって本当につまんないと思っていて、その時と同じような気持ちを去年の春は味わったので。
(でも、その「つまらない」は「いやだ」「嫌いだ」というのとは違う。もっと「思うところが何もない」というか……そっちのほうが悪いか。私が「いやだ」と思うのは、安かったり、センス悪かったり、ダサかったりするやつ。中村B作品にそれはない。ださいものを私は憎む。……そうだ、だささを排除、というのが近鉄からニューへの目標のひとつではなかったか。それもあるからますますださいやつは許せんのよね。だから無感想のほうが私としてはいいんだけど)
去年の春のおどりの洋舞より好きだ。ただ。

ただ、私は「松竹座で出すショーたるもの(ほんとはどんなところでやるものであっても、と言いたいとこだけど、まあなんとかそこはこらえて)、見る者がハッとする、ええーっこんな表現があるのかとか、こんな世界があるのかとか、とにかく「初めて見てスゴイと思うもの」を突きつけてほしい。その気持ちが感じられないといやだ。何よりもまずそこを目指してくれと思う。このショーにはそれがあんまりなかった。いくら踊りまくってくれようとも、私はそれがないことは「正しくないこと」だという考えが抜きがたくある。……とはいっても、そういうもののないショーでも無条件に楽しめるものは当然あるわけでそれを否定するものではないですが(2003年の武生公演なんてのがその最たるもので)、今回のショーはそこまで行かなかった。ええと、今までのショーでいうと、和歌山公演の時のショーみたいな(串本節とか歌ったやつ)。松竹座でやっても静かににじみ出る近鉄のかほり、というのも。

舞台上のパフォーマンスについてはけっこうフラットな気持ちで見てたんだけど、振り付けにハッとするものがなかったというかダンスにハッとするものがなかったというか……上から見ると隊列が揃っているOSK、という人がいらっしゃるが私はそれには疑義を呈したい。横のラインが揃ってないってのは近鉄時代からそうだったが、今は横も縦もけっこうバラけていると思う……。一階から見ててもわかるぐらいに。
日舞の時と同様、キメるべき時のキメが揃わない。日舞と違って洋舞は「わからない」ということが(桜花さんに限らず)なさそうなのがOSKの皆さんで、その点迷いはないが、しかし単純に動きが揃わないというのもしまらないものです。今回だと、ジャズの場面が、かっこいい衣装音楽振り付けなだけに、目立っちゃってた。ジャズんとこ、いいって人が多かったけど、いいのかあれで。

などと書いていると、私が希望するのが「一糸乱れぬ正確無比なダンス(群舞)」だと思われるかもしれませんが別にそんなことはない。ヘタとかドヘタでもいいじゃん。ダンスの上手いことに何の意味があんねん、というぐらいに思っています。ヘタな人って見てるとけっこう面白いですよ。「ああ、踊れないって、こういうことを言うのね」としみじみ見てしまう。ヘタも楽しめなくてどうする、と思いますもの。『キエンセラ』の悠浦のダンスなんて、ほんとによかった。楽しかった。曲も振りも趣味じゃないが、悠浦のダンスが私を救ってくれた。
でも楽しめるヘタと緩んでて無神経で揃ってないのとは違うので、ジャズのとこは楽しめなかったのです。他にもそういうとこが散らばってたなあ。ここもやはり稽古稽古稽古ってことなんだろうか。

ジャズといえば、カッコつけてみんなで踊った後に、高世がひとりで歌う曲が、いきなりノンキでカワイイ曲でコケそうになった。な、なぜ、よりによって高世があそこであんな歌歌ってんだろ。このショーの音楽って全般的に不思議で、ミョーにポコポコとした感じのカワイイ曲が突然ポコポコと飛び出てくるようにちりばめられており、フィナーレの『BE HAPPY』なんかはそれが最大限良い方に出た曲であった。でもそうじゃないとこの高世のストライプスーツでカッコつけて歌うノンキ曲みたいになる。ま、コケるけどダサいわけじゃなかったので、まあいいか。

それで、高世さんの髪型についてのことだけど、タンゴの場面があった。そこで高世はめずらしく「ぴたっとオールバック」にしていた。私は高世の「燕尾のシーンなどの時にする男役としての基本の髪型の、前髪およびサイドの処理」がどうしても好きになれないでいた。「高世の形状記憶前髪」と呼んでいる、代わりばえのしない、いっつも同じ、きちんとしていてカッコ悪いわけじゃないんだけど、かすかにヤンキーくささが混入したような髪型がどうしても好きになれず、高世はもっとカッコよくキメることができるはずだ、と思っていた。あれならオールバックのほうがぜったいいいはずだ、とも思っていた。そのオールバックがついに目の前に出現したではないか!(2004年秋のおどりのブラック&ホワイトの場面でもオールバックっぽくしてたけど、あれは私にとっては「少し流れていて、完璧なオールバックじゃない」と、かえって欲求不満が増していました)

で、その髪型に私はとても満足して、「そうそうそう、これがいい。このカッコよさ。やっと高世に男のセクシーを見たぜ」と舌なめずりしながら見てたのでしたが、何人かの人が「高世さんてオールバックは似合わない」と言っていたのを聞いて「ええーっっ」と驚いた。あれは不評だったんだろうか。額にへんな細いヒモ巻いてるのは似合ってなかったけど(みんな巻いてたからしょうがなかったんでしょうが)、髪型はすげー良かったと思ったんだがなあ。

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