くろとかげたん

叫び〜〜〜!

2月見た黒蜥蜴というお芝居の話です。

黒蜥蜴って原作読んだけどわりと駄作なんじゃないか江戸川乱歩のものでは。ただ、何かと雰囲気に溢れているといいますか劣情を刺激するといいますか、

「舞台化して、萌え設定をぶちこむ」にはうってつけ

と思うんですよ(怖)。

宝塚で黒蜥蜴が上演された時、確か明智小五郎と黒蜥蜴が兄妹禁断の恋設定でしたが、今回の黒蜥蜴は明智小五郎と幼なじみ、それもタダの幼なじみじゃなく、ふたりとも孤独な境涯で、魂が寄り添い合ってたという設定。明智は母一人子一人、母が芸者で父は異人さん(羽左衛門か)、茶髪で「アイノコ〜」とかいじめられて孤独。黒蜥蜴は父一人子一人、父は見世物小屋の百面相芸人で、彼女もいじめられっ子で孤独。寄る辺ないふたりの少年少女はひそかに心を通わせてるんです。

この黒蜥蜴と、その父の関係、村上もとかのマンガ『蠢太郎』(じゅんたろう)にすごく似てるなーと思った。蠢太郎は父親が歌舞伎の人気女形だったのに、ある理由により都を逐われ、村芝居出たりおっさんに身を売ったりしながら美貌の息子を連れて旅して(逃げて)いる。別にぱくったとかではなく、なんかこういうのって「陰翳を礼賛」する「創作者のロマン」をかきたてるんでしょう。あ、『蠢太郎』は名作ですよ!

蠢太郎

魂の兄弟であるかのように仲のよかった幼い小五郎と黒蜥蜴。黒蜥蜴の心の叫び、「こごろうちゅぁ〜ん」は忘れられません。でもふたりの仲は突然終わる。黒蜥蜴と父(なぜかほとんどいつも女装してる。そのへんも蠢太郎の父である)は悪いやつに騙されて満州に連れていかれて(結局なんのために満州に行ったのかが不明だったが私が見落としたのか)、父は殺され(蠢太郎の父ちゃんも殺されてた。そっちは殺される意味はよくわかったけど、黒蜥蜴父のは今ひとつよくわからなかったが私の理解が足りなかったか)、娘は売り飛ばされる。娘が売り飛ばされるといえば女中奉公でおキレイにお茶を濁すか、それともちょっと踏み込んで遊郭!というあたりがお決まりであるがそんなフツーの設定で済むようなKAGEKI黒蜥蜴ではない。「幼女専門店」でペドフィリアオヤジにやられまくりだ!(ですよね? あの黒蜥蜴の口ぶりは)これは花輪和一のマンガを彷彿とさせる。幼女が売り飛ばされて、歯を全部抜かれてしゃぶらされるってのが(タイトル失念)(画像はイメージです)。そうか、黒蜥蜴の歯も……(違)。

えろぐろ

で、黒蜥蜴はマダム緑川と名乗り、グランドキャバレーみたいなのを経営していて、ショーの作演出も担当。マダムは黒い爬虫類を絵に描いたような「怪しげな美女」。手下にも黒蜥蜴の下位互換的な怪しげな女を配している。いわばカナヘビ? 黒蜥蜴がセンターでカナヘビがサイドを固めてトカゲちっくなダンスなどお見せする。このクラブはどういう客層を想定してるのか。六本木の金魚みたいな店か。風営法など埒外の秘密クラブか。その割にはそこで「お金持ちの箱入りお嬢様・早苗をショーに出して売り出す」とかやってるんだけどそれはいいんだろうか。お嬢様は替え玉だっけ。あまりに絢爛な舞台のせいで細部がいろいろふっとんでしまった。それにしたって表面上でもそんなとこのショーに出したりしていてはまずいんでは。いいんですそれが黒蜥蜴なんです。

で、黒蜥蜴はタダのマダムではないので何か企んでる。原作では美しい人間をコレクションして剥製をつくってましたが、この芝居ではそれはほとんど出てこなくて宝石のことばっか言ってる。「宝石を狙うと見せかけてじつは早苗嬢の美を我が物に!永遠の美は剥製!」かと思い前のめりで見ていたが、剥製話はぜんぜん出てこない。じつは黒蜥蜴軍団の存在意義はそんなところにはないのだ。

黒蜥蜴軍団、虐げられた女性たち?の結社なんです。黒蜥蜴は前に書いたような目に遭っていて、手下トカゲの中の若頭ポジにいる美人は、黒蜥蜴がペド風俗に堕とされていた頃の同僚らしい。手下の中でいちばん不気味ポジなのが、口もきかずただ黒蜥蜴のまわりをクネクネしてる蛇のような少女だが、これが

虐待されて声を失った少女設定!

しゃべらないだけでなく、とにかくニタ〜〜と微笑み続けているので声だけでなく精神の均衡も失っている模様。他、

女しか愛せない女
女である自分の姿が受け入れられない女

など、バッチリ取り揃えられております。イカニモ男役みたいな手下がいたので気になっていたが、そういうことか。しかし彼女はトランスジェンダーではなくトランスヴェスタイトのように見えるが、そしてこのご時世そのへんをごっちゃにすると何かと面倒な気がするがそういうザックリした言い方でいいのか黒蜥蜴。いいの黒蜥蜴だから。とにかく黒蜥蜴は虐げられた女たちと徒党を組んで闇の仕置人稼業をやってるんです。でも自分をペド地獄に堕とした男ってのは早苗の父ちゃんだ。今、目の前にいる。この一連の騒動はついにやってきた黒蜥蜴の復讐劇成就の時なのである。それならそいつをさっさとなぶり殺すなり、カンタンに死なせないわうんと苦しむのよ〜オーホホホホホ、ってんなら可愛がってる娘をなぶり殺すなり苦界に堕とすなりしてから父親をさらに屈強の男にまわさせて性奴隷に堕とすとか(田亀源五郎かよ)いくらでもやることはありそう、なのにわりとノンキに「宝石はここよ〜」とかやっているので、それほどワルにはなりきれないのかもしれません。それから黒蜥蜴、途中で男装みたいなこともなさるんですが、これが新国劇みたいな断髪カツラで「散切り頭を叩いてみれば文明開化の音がする〜」とか歌うと似合いそうなのにみょうに声は甲高くてどうしたんだろうと思わせるヒキがあり、「ボクは男でもなく女でもないっ!」とおっしゃっていて、これは確かに男でも女でもないなあ、宦官に近いかも、と納得させられるものがありました。あと掃除の爺さんにも化けていて、絵に描いたような黒蜥蜴爺さんなのに誰も気づかないというのは明智や警察ふくめてこちらの捜査能力もノンキ。

そして最後は、黒蜥蜴が小五郎ちゃんと対決の場になって、復讐劇も忘れて昔なじみの小五郎ちゃんにフラフラしちゃっているのを手下の美人カナヘビが鋭く察知し、拳銃を持ち出したからてっきり「あ、これは美人カナヘビが黒蜥蜴のこと愛してるんだ、それで愛する黒蜥蜴が小五郎なんかと結ばれてしまうぐらいなら、黒蜥蜴様を撃って私も死ぬ」なのかと思ったらふつうに小五郎ちゃんを撃つのでちょっと肩すかし。それでラストまでさらにどんでん返しがあるんですが、衝撃が大きすぎたのか記憶がなくなっている。おぼえてるのは黒蜥蜴の「小五郎ちゃん愛して”る”わ”あ”あ”あああ」という叫び声です。

終わった時にはぼう然としましたが、ストーリーのつじつまなんかよりも萌えの3D化。そういう意味で相当完成度はたは…いや高かった。

暗くて明るい、きれいはきたない、思わぬところが地に足がついている、妙に笑える浮遊感と堕ち感、呆気なさ、極彩色の紙芝居、というこの感じ、客席でずーっと「この世界を私はよく知っている」と思い続け、思い出したのはあれだ、丸尾末広の『少女椿』。近鉄アート館で上演されて、そして客席に座ってぐったりしている自分が見えるようである。でもみどりちゃんをやる人がいないか。

少女椿

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