ビデオスターの悲劇

今年のOSK・大阪松竹座公演『春のおどり』のDVDが、予約300枚に達したら発売する、ということでちょっと話題になっている。いやなってないか。狭い狭いOSKファン界では話題になっているということです。

大阪松竹座公演『レビュー春のおどり』DVD発売のお知らせ

それで、今まではDVDの値段は8千円だったのが、今回は1万円。送料代引き手数料コミとはいえ、いきなり1万円! なかなか驚かされるものがある。で、この件に関してはいろいろな意見が出ていますが、いくつかの問題があるので、問題ごとに切り分けないといかんと思います。

OSKが今回このような挙に出たのは、それは「DVDを出しても儲からない、どころか赤字を抱える」からでしょう。だって、古い話ですけど世界館公演のDVD(タイトルはカンベンしてください……)が24枚しか売れなかった、というのを私は知っている。そのうち、私の友人は2枚買ったので、最大でも23人しか買わなかったってことですよ。これ聞いた時は、衝撃とともに「OSKのファンはケチだ」ということが私の中で決定事項となった。「買ったら貸してー」いうてる人を何人か見聞きしたので、ってことはゴキブリ一匹の裏には……のひそみにならっていえば数十人のゴキブリファンがいるということになる。この調子じゃ、松竹座公演のDVDだって売れねえわな。

この状況はには二つの問題があって、

「ファンがケチ」=買い手に問題がある
「買いたくなるような内容の公演じゃなかった」=売り手に問題がある

まあ、ケチな上に内容がアカンからさらに売れなかったということもあろうが、それは措くとして。

OSKファンという人に言いたい。
「ファンならカネ出して買え。今回の松竹座だってもちろん予約して300枚に達するのを祈り、そして代引きで送りつけられたら狂喜すべきである。自分の贔屓劇団員が出てなかろうが何だろうが、問答無用でOSKのファンだというならDVDは予約して、今回は代引きだけどいつもなら代金支払っての予約。それをするべきだ」
むろん私も今日、予約してきましたとも。
「OSKのファンのくせにDVDを買うか買わないか迷うのみならずケチって人に借りるだのダビングさせろだのいうような輩はさっさとどっかに行け。あんたらがいなくても劇団は何も困らない。というよりそんな貧乏神みたいのはいないほうがマシだ」

と、まずファンに向けてアジテーションしてみました。
ところで、私がよく口に出して顰蹙を買うところの、「OSKと宝塚を両方見る人の気がしれない」という科白がある。両方見る人が「今日はベルばらとOSKダブルヘッダー」とかいうのを聞くと「なんで? OSKを2回見たらいいじゃない」と思う。そう言われたら、両方見る人は戸惑うか怒るかするようで、私は逆にそれがさっぱりわからなかったが、今は互いの齟齬の原因がわかる。私にとって、OSKを好きであるということは「恋愛」のようなものであって、宝塚も両方見るってのはまさに「二股掛ける」「不倫する」のと同様であった。倫理的に許されないことなのですよ。しかし、OSKも宝塚も両方見るって人は、恋愛なんかじゃなくて、私における「ハンバーグ食ってからラーメン食う」ようなものなのだ。あー、それならわかる。でもわからん。その程度のもんなの? よくご贔屓が……とかいうのを聞くけれども贔屓が何人もいたら感じ悪いんではないのか。と、原因がわかったとかいいながら、そういう人のことを理解する気にはさっぱりなれないのだった。まあそれはいいとして。…………そういう人にとっては、DVD300枚と言われた時、私のように「たとえケースの中に入っているのが空DVDであっても1万円で予約する」とはならない。で、たぶん、そういう人のほうが圧倒的に多いんだろう。

(多い、と書いたけど、それはOSKを見る人の中での割合であって、その人数は多く見積もって250人ぐらいとみた。その250人が「どうしようかな〜」「買おうっと♥」「今回は……いいや」と迷う要員。ここが流動する)

そういう人に「常に“買おう!”と言わせる」にはどうしたらいいか、というのを考えなければいけない。

今回の『春のおどり』は、私には当初いろいろな思いがあったが、日生3回、松竹座は初日から3回連続で見て、「これは良いと言うべき作品」という結論に至った。とくに洋舞については見方が変わってきている。例の帽子ダンスについてはまだいろいろと思うところはあるけれどそれは個人的な問題なので、そこは除外する。今回の春のおどりは「良い」。なぜなら、

作品は清潔で、クールでタイト。この“清潔”ってのが超重要で、年末年始のオセイリュウのショーもそうだったけれど、この「清潔」を達成することが「近鉄解散からNewへの存続の意義」だったと思うので、それはもう口を極めて賞賛すべきものです。あと、劇団員は松竹座でも必死でやっている。それは必死にならざるをえないタイトかつ強靱さを要求されるダンスだからです。そういう振付である。ダンスのOSKっていう割には最近こういうダンスはなかった。だから全体にゆるんだ、慢心したような舞台になっていたのだと思う。そんなゆるんだ空気をいきなり締め上げてくれたという意味ではとてもとても私は名倉先生に感謝したい。
(日生で見た時は、日生劇場だから緊張してるんじゃないかと考えたが、松竹座でもきちんと、良い緊張があった)
この『春のおどり』なら、DVDが出るなら買いたいという人は多いに違いない。上記の「どうするかその都度変わる人」のうち6割ぐらいには買わせる力がある(6割って低いようだけど、「買いたい」と口で言うのと、実際に予約の書類に名前書いて住所書いて……ってするところにはけっこう大きな距離があるもんです)。そして、日生で初めてOSKを見たという人に「ちょっと買おうかしらん」と思わせるパワーもあった。ふらふらと買ってしまいたくなる、という人も50人ぐらい……70人はきついだろうけど……いるだろう。

だから、「良い内容の公演をする」ことが重要なのだ。ほとんどの客は「どうしよう」っていう人たちなんだから。

知ってる人は思い出してみてほしいが、2006年夏のアピオ大阪公演『華麗なるメヌエット』なんてのは、最初から予約もなく発売もされませんでしたが、別に「出してください」と言われることもなく(あ、ちどりさんはいちおう言ってたか)スルーされて今や「黒歴史公演」として忘れ去られようとしております。出なくてよかった。空DVDでも買うっていうようなファン以外買わねーよあんなもん。いくらファンの情宣活動にDVDは必須ったって、それで情宣活動して増えるファンより減るファンが多いに決まってる上に、それ以上の金銭的赤字で会社に負担かけるぞ(そしてその会社は民事再生になりました)。

今回のDVDはたぶん予約300を突破して、ぶじ発売にこぎつけるでしょう。たぶんそこでファンも会社もある種の達成感を得て、DVDは売れる、商売になる、と思ってこれからどんどんDVDを発売し続けたりしたらまた24枚しか売れなくて在庫の山に埋もれるようなことになることでしょう。DVDで商売するんじゃなくて、公演で商売してください。DVDなんて、あくまでオマケです。売れて儲かったらそれは「良い公演をしたご褒美」です。

最後に。矛盾することを言うようですが、OSKが、DVDの発売を、ペイさせるために300枚予約が集まったら発行する、というのは間違っている。そんなみっともない内情見せてどうするよ。そういうのをウリにするっていうならそれはアリかもしれないが、そうじゃないだろう。そもそも「ペイするかしないかでやるかやらないかきめる」なら、劇団なんか「やめること一択」ですわな。

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