B問題Part1

(承前)
Aの話を今してるんだけれど、Aについて考えていたこと、および私が受けたショックなことを、よりわかりやすく説明するために先にBについて、私が考えるBとはいかなるものなのか、ということを書きます。

【B群:作品の思想(志向)が問題】
っていったい、なんなんだよ、と思う人も多そうなので。志向はともかく思想って。

おととい、『JUJU』のDVDが来た。三越劇場と大丸劇場でやったこの『JUJU』というショーの、私は大丸でやったバージョンを観た。もうひと目観て「ダメ」な作品で、こりゃ今年のワースト間違いなし!と断言。何がダメだったのかを具体的にいいますと、音楽(選曲)と衣装と振付と台本。DVDが来てまた2回頭から終わりまで見直しましたよ、確認のために。

▲音楽というか選曲はどうしてこう、演歌っぽいじめっとしたのを取り揃えてんでしょうか。私、ゆずというユニットも『栄光の架け橋』という曲も大嫌いですが、この大嫌いな曲がいちばんマシというショーは……。
▲衣装は、安物で飾りすぎ。光ってりゃいい盛ってりゃいいというダイソー&化繊路線。洋舞でこれやられるのも厳しいが、日舞ではさらにゲンナリな飾りたてぶり。
▲振付は、曲ありきなので、ああなるのもしょうがないのかもしれないが……。
▲台本は、小芝居の台詞や(演技指導も含め)歌詞のクドさ、それから客席交流コーナーがもう勘弁してほしいと……。

このような物どもが目の前で炸裂するという作品なのであった。ここにプラスしてCの問題も混在し、大前提(ここがダメならすべてが崩れるという基本線)となるA問題についてはどうだったのかということがもうわかんなくなっちゃっている。DVDで見直してみても判断がつかぬ。ただ、何か、手慣れたというか、妙な安定感はある構成なのである。

いやそれにしてもこのショーは……と思いながらDVDを見ていて気づいたのだが、

これは昔のOSKそのものではないか

解散前の。武生のビデオとかあやめ池のビデオとか和倉のビデオとか、まさにこんなんだった。音楽、衣装、振付、台本。近鉄劇場の公演だと少し違うかなーと、名作の誉れ高い『新闇の貴公子』を出してきて見てみたら、今までずっと朝日放送でやったやつの録画(ダイジェスト版)を見ていてひさしぶりのノーカットバージョンだった。こっちを見るのがものすごく久しぶりで、そして気づいた。く、くどい……。名作なのは確かだが、あまりのクドさに途中でくじけそうになる。朝日放送のダイジェストは正しかった。いらん台詞いらんクスグリが炸裂。それから舞台からアテぶり指導とか手拍子指導とか、どんだけ好きやねん。これをやらないとどうにかなる、とかいう深い事情でもあるのか北林先生(←コレが好きなのはどうも北林先生だけみたいな気がするので)。

東京會舘のディナーショー(今年のじゃなくて)、バーンザパッション、桜NIPPON踊るOSK、と「見た瞬間にダメ判定」「今年のワースト!」な作品(今年のワーストと思うものが2011年はまとめて3つ来たんだよなあ……これには参った)は、作者や振付家こそ違えど、音楽、衣装、台本、とまあ見事にトーンが一緒。JUJUで感じた「ミョーに手慣れた感」「どんと腰を据えたかのような安定感」も同様。北林さんと吉峯さんて近鉄時代に見ていて「こりゃー互いに互いをダメと思ってるぞ−水と油だぞー」と面白がっていた(勝手な想像です)ぐらい作風ちがってるのに、立ち上がってくる香りがこんなに同じって。

この香り、こそ、OSKの伝統。……なのか……も……

解散前にこういう舞台をずーっとやってきたら、見てた人もやってた人もつくる人も「OSKとはこういうもんだ」と思うし、これを見れば見慣れてて安心、という気持ちなのかもしれない。ほっとする香りっていうんですか。ライナスの毛布的な。

さてここから「B問題がなぜ思想の問題なのか」という説明に移ります。
近鉄がOSK解散を宣言した時にたった一人、大貴誠という劇団員が「それはいやだ」と言って、存続運動が始まったわけです。まあ、大貴さんという人は毀誉褒貶激しい人ですが、この「ただ一人、いやだと言った」については「実は違う」とか「別の子が言ったのを横取った」というような話は一切なく、じっさいその場にいた人からも「確かに大貴さんしかそれを言いませんでしたしねえ」という証言も得ている。ってまあそこはいいとして、この発言をきっかけで、所属劇団員全員による「存続運動」が始まった。全員参加は建前というものでイヤイヤやってた人何もしなかった人もいたみたいですが、それもまあいい。
近鉄劇場の最終公演が終わり解散式があり、「OSK存続の会」が発足して、解散時の劇団員約三分の一になって活動を再開した。
ここからを「NewOSKのはじまり」とする。

最初の公演が近鉄劇場、『熱烈歌劇 re-BIRTH』、来年2月に再演するやつです(どう考えても再演はムリな内容なので、タイトルと主題歌だけ重ねてあとは別モノでしょう)。
そして武生公演『愛……そして美しき旅立ち』。
MIDシアター『生きてこそ春に花』。
ときて、途中にこれらの再演とか抜粋の単発や、クリスマスパーティイベントをはさみ、翌年ついに、

大阪松竹座『春のおどり 桜咲く国/ルネッサンス』が実現。

その後『秋のおどり』、『闇の双璧』、『武生公演(北原高世コンビ)』、年末に世界館が落成してこけら落とし公演『ブリリアント∞』、翌2005年1月から世界館定期公演開始、第一弾『ダンディ(主演桐生麻耶)』……と続いて今に至るわけですが、この、存続第一弾から、大貴さんが退団する2007年春のおどりまでの間、A群やC群の作品はいやっちゅうほどありました。大貴さんが出てるのでも、ひどいやつありましたから。が。いいの悪いの、たくさんの作品で、

上で説明した“OSK伝統の香り”のある作品はなかった、んですよ。

(ほんとかよ、とあらためて考えてみたら、2005年12月和歌山公演『ショー・マスト・ゴー・オン』第一部「NIPPON讃歌」。あれは香りがありました。30分強の日舞ショー、あれはちょっとその匂いがあったな。民謡メドレーとかボレロとか連獅子とかやってて、衣装も安っぽくてですねえ、そしてミョーな安定感。伝統のかほり……してたしてた。時間は短いだけに凝縮した香りがぷーんと。あー、NIPPON讃歌って、桜NIPPONとかぶるじゃん。関係ないか)

衣装が安い、音楽がふるわない、脚本がアリャリャ、みんなあった。
でも“OSK伝統の香り”がほとんどなくなったんです、解散してから。

それが偶然なのか意識してそうしていたのか。

たぶん意識してそうしている。
OSKが解散してOSK存続の会〜NewOSK日本歌劇団と通して、北林さん吉峯さんとはほんの少しの仕事しかしていない。北林さんは『熱烈歌劇』を1本最初にやってそれっきり、吉峯さんは2003年武生のフィナーレナンバー『We Love OSK』の作詞をしただけ。あとはまるっきり関わりがない。解散前に事実上の二本柱だった作者(それも一人は座付き)と関係がきっぱり途切れたので、なんでだ?という疑問はみんなあったと思う。私も「北林先生に頼んでもいいんじゃないか?」と思ったし。
(今でも、当時、頼んでおいたらどうだったろうかと考えることはある。人は成長もするが老いもするし油田も原油が出る時があれば枯れる日も来る……と考えると、北林さんに頼むのだったら少しでも早いほうがよかったんじゃないだろうか、JUJUを見るにつけ。でも『熱烈歌劇』見ると……まあ……いつ頼んでも大勢に影響なかったか)

作品にOSK伝統の香りを漂わせる先生二人と関わりがなくなって、OSKの作品は変わった。2003年武生、MID、神戸オリエンタル(MIDの再演をやったところ。MIDにはない単独ショーが二部としてついてた)のあたりまではそのことがよくわからなかった。2004年『春のおどり』を見て、もやもやっと、「何かがちがう」と感じ、2004年『秋のおどり』で決定的にちがいがわかり(直後に『闇の双璧』で大いにずっこけたが、これはA群の極みみたいな作品だったので、OSKの香りがあるなしとは関係がない)、その後もひどい作品を頻発しながらも、OSK伝統の香りとは(前述の2005年和歌山公演を除いては)無縁でやっていた。

どうして北林吉峯両先生に作演出を頼まなかったのか、という直接の理由は知らない。ただ、当時を少しばかり近所で見ていた者の実感としては「頼めない」のじゃなくて「頼まない」だった。あちらにしたら「こっちこそお断り」の状況だったかもしれないが、『華麗なるメヌエット』なんかやっちゃってる払底の状況の中でさえ北林吉峯両先生に頼むと考えたことすらなかっただろう。

そうなっったのは、大貴さんの意志が入っていたと思う。
そういうのを「劇団の私物化」と言う人がOGやファンにもいたようだけど、あの時の体制を考えるとそうなるのもムリはない(それに集団でトップの私物化がなされないとこなんて、実際問題としてないだろう)。
大貴さんがどうしてその二人に頼まなかったか理由は知らないが、結果は見たからわかる。

存続してから“OSK伝統の香り”はなくなった。大貴さんがいる間は。

そして新たにできたのが「大阪松竹座公演を頂点とするOSKから発する香り」。
大貴誠は「OSKをこちらへ転換させようとした」。
文革を敢行したのだ。

私がB群について「思想が問題だ」と言うのは、何が正しいかについての意見が違う、という意味です。
で、B群を問題と見る私は、大貴誠が志向したOSKの方向性を支持しているということです。
ふう、やっとここから「存続以降、大貴さんが退団するまで、OSKが松竹座でつくったものとは何か」という問題に行けます。(つづきます)

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