『大河ドラマの黄金時代』は大河ドラマだ

大河ドラマの黄金時代

私のような年代の人間だとNHK『大河ドラマ』というのは「重厚なもの、かつ面白く胸躍らせるもの。とにかくすべてのテレビ番組の中でも最高級にすごいもの」という特別な気持ちがあって、そして年寄り特有の「昔のことは美化して思い出してしまう」というやつがあり、「今の大河の体たらくはどうだ!」などと文句を言いたくなる。そんな人間として、『大河ドラマの黄金時代』という本は見逃せるわけがないではないか。
 

大河第一作『花の生涯』(←しかしこのタイトルってほんとにかっこいいよな)から第二十九作『太平記』までの、制作の舞台裏を当時のスタッフに聞くというもので、途中にはNHK『金曜時代劇』の動向なども挿入されている。NHK出版新書から出ているということもあり、「NHKが思い出したくないようなことは書いてないんじゃないか」とついゲスな勘ぐりもしたくなるところ、わりと当時のトラブルについても率直な思い出話がいっぱい出てくる。脚本が遅れてどうしようもなくなるとか、途中でストーリーの方向性を見失うとか脚本家と演出家がぶつかってどっちかが降りるとか、そういう話は「うへーー舞台でもまさにコレあるよー胸が痛い」と、つい自分に引き寄せて、そこが読み所みたいに読んでいたりもしたけれど、もちろんトラブル話はすごく面白いのだが、読んでいるうちに「この本の面白さはそこではない」と気づく。

各作品について、平均視聴率と最高視聴率が必ず最後に書かれている。最初はオマケのような気持ちでこの数字を見ていたが、NHK局内で「大河ドラマをこれからどのようにしていくのか」という試行錯誤、新しい時代劇をつくりたいという意欲、大衆演劇としての大河ドラマ、芸術としての大河ドラマ、面白さの追求、美意識の探求、そういったものが、各大河、各プロデューサーによってぜんぜんちがうわけで、そのどれもが「どちらが正しくてどちらが間違っているわけではない」のだ。その中で「視聴率」というものが唯一、数字で表れる評価になるわけで、今に至るまで「あの大河の視聴率は」と、良さを賞賛しダメさを揶揄する道具として使われてきた。でもこの本を読んでいると、制作者に強い思いがあるもの、それもどう見ても「ただの独りよがりではなくちゃんと考えられたもの」「作者も演者も納得してノって撮られたもの」が視聴率がふるわなかったりしているのである。これも胸が痛い。私が「途中で見るのやめちゃった」大河が、視聴率のきなみ高かったりしてるしなあ(『独眼竜政宗』が私はダメだったもんで……)。あえて視聴率を書くことによって、数字以上のことを考えさせられる。

400ページものぶ厚い新書で、それだけページがあってもこれだけの内容を書くとなると一作についての記述が短いんじゃないか、一作についてわりとさらっと終わる、どうせなら『笠原和夫 昭和の劇』ぐらいの、『大河ドラマ 昭和の劇』みたいな大部の書籍で、ある一つとか、二つとか、同じプロデューサーの作品にしぼったようなものでたっぷり読みたかった、……と、途中までそう思いながら読んでいた。しかし最後まで読み通してみると、これは「『大河ドラマ』の歴史を追った大河ドラマ」のような一冊なのだった。何かの一作について思い入れがある人が読んでも裏話やキャスティングなど面白い話はいっぱい出てきますが、大河ドラマそのものの、その大河の流れを感じるための本だと思います。

(さいきんめっきり書評の仕事も頼まれないのでもう勝手に書くことにしました。たくさんの人が読む媒体じゃなくて申し訳ない)

昭和の劇

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